OVPE-GaN結晶に見られる花弁模様 拡大
OVPE法特有の3次元成長によって生じた
ファセットを反映して育成した
GaN結晶中に不純物濃度分布を生じていることがわかりました

由来種         :窒化ガリウム
器官・組織・細胞(株)名:窒化ガリウム
染色・ラベル方法等   :染色はしていませんが、PCで青系色に色味を変更しています。
観察手法        :多光子
対物レンズ       :10倍
作品画像取得年     :2022

宇佐美 茂佳大阪大学 工学研究科 助教
OVPE-GaN結晶に見られる花弁模様
2022 芸術特別賞

受賞コメント

宇佐美 茂佳

宇佐美 茂佳

このような栄えある賞にご選出いただきありがとうござます。
OVPE 法において特定の条件下で成長したGaN結晶の発光像を観察すると雪の結晶のような、花びらのような模様が見られます。
最初に観察したときにとても美しいと思い、この企画に応募させていただきました。
冬の季節にぴったりな画像を提供できたのではないかと思います。
審査員の皆様に共感いただけたこと大変嬉しく思います。

研究の概要

次世代パワー半導体1材料として注目されている窒化ガリウム(GaN)2の実用化にあたっては高品質かつ低コストの自立基板が必須である。
大阪大学では、原理的に高速成長が可能であり低コスト化に有望な成長手法として酸化物気相成長(OVPE)法3の開発に取り組んでいる。
しかしながら、本手法は成長中に多結晶4を生じやすく高品質ウェハを得ることが困難であった。
我々は他成長手法との差を精査することで多結晶の生成要因がOVPE法で用いる化学反応の高い反応性にあることを突き止めた。 熱力学解析によって気相核生成を抑制するように供給ガスの構成を変更したところ、低成長レートではあるものの多結晶が低減されることがわかった。
しかし、成長レートの高速化で再び多結晶が増加することが新たな課題として浮上したため、新たなパラメータとして成長温度に着目した。
熱力学解析の予想をもとに成長温度を従来の1200℃から1300℃とGaNでは通常用いられない温度にまで上昇させることで多結晶を抑制しつつ200μm/hの高速成長が実現可能であることを示した。
Ayumu Shimizu1, Shigeyoshi Usami1*, Masahiro Kamiyama1, Itsuki Kawanami1, Akira Kitamoto1, Masayuki Imanishi1, Mihoko Maruyama1, Masashi Yoshimura2, Masahiko Hata3, Masashi Isemura4, and Yusuke Mori1
High-rate OVPE-GaN crystal growth at a very high temperature of 1300℃.
Applied Physics Express. 2022, 15(3), doi: https://doi.org/10.35848/1882-0786/ac4fa8

研究メンバー

今西 正幸
大阪大学 工学研究科 准教授
森 勇介
大阪大学 工学研究科 教授

用語解説

1.次世代パワー半導体

炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム、酸化ガリウムなどSiよりも優れた物性値を有する半導体材料です。炭化ケイ素は近年、電気自動車への採用が拡大しています。またGaNは携帯充電器に採用されるなど身近になってきています。

2.GaN

窒化ガリウム。青色LEDの材料であり、2014年に赤﨑勇先生、天野浩先生、中村修二先生がノーベル物理学賞を受賞されたことでも知られています。

3.OVPE(Oxide Vapor Phase Epitaxy)法

酸化物気相成長法。ガリウムと水蒸気の反応からGa2Oガスを生成し、基板上でNH3と反応させることでGaN結晶を得る気相成長法です。

4.多結晶

気相成長法では、元となる基板の結晶情報を引き継がせて所望の結晶を成長させるエピタキシャル成長法が用いられます。多結晶は元となる結晶から配向がずれてしまった結晶を指します。多結晶は最終的に半導体デバイスの不良につながりますので、多結晶の発生を抑制して単結晶を得ることが重要となります。

5.気相成長法

気相成長は、その名の通り気相(気体)中で結晶を合成する手法です。液体中で合成する場合は液相成長法と言います。

Q & A

Q1なぜ次世代パワー半導体の研究開発が進められているのでしょうか。
また次世代パワー半導体の実用化にはどういった課題があるのでしょうか。

脱炭素社会の実現に向け低消費電力社会の実現は急務と言えます。
現在主流のSi半導体は効率の限界に近づいており、我々は次世代パワー半導体材料である窒化ガリウム(GaN)の研究を行っております。
GaNの実用化にあたって結晶品質の低さや高い製造コストがこれまで大きな課題でしたが、多くの研究者の努力によって高品質結晶が実現され、製造コストについても克服されつつあります。

Q2次世代パワー半導体の研究開発において多光子励起顕微鏡が用いられているのはなぜでしょうか?
また多光子励起顕微鏡を用いて先生がすでに取り組まれている研究はなんでしょうか。

これまで結晶欠陥の観察はカソードルミネセンス法やエッチピット法などが主であり、表面の転位分布を見ることができても転位の追跡評価は困難でした。
そのため、転位がどこで生じてどのように貫通してくるのか成長履歴に対する転位伝搬挙動は不明でした。
多光子励起顕微鏡を用いることでGaN 結晶内部の欠陥を3次元的に可視化できるようになり、結晶の欠陥をなくすにはどのようにすれば良いのか、次の一手を考える極めて強力なツールとなっています。

Q3これからの産業をリードすると期待される本テーマを研究されていますが、研究を進めていくうえでの難しさ、そして先生にとって研究を推し進めていく原動力はなんでしょうか。

GaN パワーデバイスの一刻も早い社会実装が望まれており、現在国家プロジェクトとして他大学や企業と連携して研究を推進しております。
結晶に求められるスペックを達成することに難しさを感じることもありますが、日々進化するGaN 結晶をこの目で見ていること、また社会からの期待を常に感じながら研究できることが楽しく、研究を進める原動力となっています。

作品の利用について

NIKON JOICO AWARD 受賞作品の利用方法についてご紹介します。

ABOUT HOW TO USE

審査員講評

  • 無機質の金属であるGaN が、結晶になると美しい花模様を形成している。大きさだけでなく形も微妙に異なっており、自然に咲き乱れた花畑のようで美しい。
  • まるで万華鏡を彷彿とさせる結晶の顕微鏡画像である。強いインパクトと美しさが共存しており、驚かせられる。
  • 非生物学的なテーマでり十分な意義も認められるが、芸術性は最も高いと思う。
  • 雪の結晶のようで美しい。
  • 結晶の光が放つ静謐で緻密な美しい世界。印象画やテキスタイルの柄を想起させる。
  • 結晶の形と青の色彩に不思議な魅力を感じます。
  • 結晶の広がりに不思議な感覚を覚えた。
  • 結晶の重なりや色味に深みがあり、純粋に美しい。
  • 花びらのように舞い拡がる結晶の世界がただただ純粋に美しい。
  • メルヘンな世界が美しい。