毛包の発生過程を1 細胞解像度で可視化することで、
連続的な細胞系譜追跡を可能とし、
幹細胞を含む毛包上皮細胞系譜の発生起源を
明らかにすることができた。

由来種         :マウス
器官・組織・細胞(株)名:胎齢12日のマウス毛包
染色・ラベル方法等   :KRT14-rtTA :: TetO-H2B-eGFP :: Fucci-G1 マウス
             (FUCCI probe, 細胞周期G0/G1 期の細胞を可視化)
             緑:H2B-eGFP
             赤:mKO-hCdt1
観察手法        :多光子、倒立
対物レンズ倍率     :25倍
作品画像取得年     :2016

森田 梨津子大阪大学 大学院生命機能研究科 准教授
連続的細胞追跡から明らかにする毛包幹細胞の発生起源
2023 最優秀JOICO賞

受賞コメント

森田 梨津子

森田 梨津子

この度は最優秀JOICO 賞という名誉ある賞をいただき、大変光栄です。
学生時代、生物の形づくりの美しさ、不思議さに魅せられ、生体外で外胚葉性器官の発生過程を捉えるライブイメージング系を立ち上げました。
この研究の「幹細胞の起源を追跡する」というアイデアは、毛包の発生過程を日々眺める中で着想したものです。
器官発生に残された未解明の謎は多く、まだまだ興味がつきません。
動画を通して、" 器官発生の不思議" を皆さんと共有できたら嬉しいです。

研究の概要

成体の組織に存在する組織幹細胞1 は、自分自身を複製する“自己複製能”と組織を構成する様々な細胞を生み出す“多分化能”を有し、組織や器官の再生や恒常性2維持に寄与しています。
しかし発生過程において、この”幹細胞”という特別な細胞がどこからどのようにして生み出されるのかについては、多くの器官で十分に理解されていませんでした。
組織幹細胞のルーツとその形成過程を理解することは、私たちの知的好奇心を満たすだけでなく、幹細胞を生み出し維持する仕組みの理解、ひいては器官全体の形作りと恒常性維持の仕組みの理解につながると期待されます。
本研究において、私たちは、毛をつくる器官である毛包の発生過程をライブイメージングで捉え、時間を遡りながら個々の細胞を連続的に追跡することで、毛包幹細胞の発生起源や形成過程を明らかにすることに成功しました。
Ritsuko Morita, Noriko Sanzen, Hiroko Sasaki, Tetsutaro Hayashi, Mana Umeda, Mika Yoshimura, Takaki Yamamoto, Tatsuo Shibata, Takaya Abe,
Hiroshi Kiyonari, Yasuhide Furuta, Itoshi Nikaido, and Hironobu Fujiwara.
Tracing the origin of hair follicle stem cells. Nature. 2021, 594(7864), doi: https://doi.org/10.1038/s41586-021-03638-5

用語解説

1.組織幹細胞

毛包や小腸、脳、骨髄など成体のさまざまな組織・器官に長期維持され、各組織の維持・修復に必要な細胞を生みだす細胞。
長期の自己複製能とさまざまな細胞を生み出す多分化能を併せ持つ。

2.恒常性

恒常性とは、生体内の環境が一定の範囲内で安定して維持されること。
ここでの組織の恒常性は、損傷や老化により失われた細胞を、組織幹細胞が分裂・分化して補充することで、組織の機能や構造が健康に保たれるプロセスを指す。

3.間充織

上皮組織と基底膜を介して接する結合組織で線維芽細胞と細胞外マトリックスから構成される。
毛包においては、毛包の発生と再生を支える様々なシグナル分子を分泌することで、毛包上皮幹細胞の維持・機能制御、毛周期の調整に寄与する。

4.遺伝子発現プロファイル

組織・器官の構成細胞において、どのような遺伝子がどのぐらい発現しているかをシークエンシング技術などにより解析することができる。

5.分化細胞

幹細胞から生み出され、組織や器官の特定の役割を担うように変化した細胞。

6.組織特異的プロモーター

特定の組織や細胞でのみ機能し、遺伝子の発現、すなわち転写の開始を制御するDNA領域。
特定の細胞を可視化したり、機能を解析するために、組織特異的プロモーターを使って遺伝子の発現を制御することが一般的に行われる。

7.Cre-loxp システム

CreリコンビナーゼがloxP 配列を認識してDNA組換えを誘導する機構を利用して、標的遺伝子の組換えや除去を実現する組換え技術。
組織特異的プロモーターと組み合わせることで、標的細胞に永続的に蛍光タンパク質などを発現させ、その細胞と子孫細胞全てを追跡する細胞系譜解析手法において多用される。

8.成体毛包幹細胞マーカー遺伝子

Sox9やLhx2、Nfatc1といった成体毛包幹細胞に特徴的に発現している遺伝子。
一般に幹細胞の形成・維持や機能に重要であることが多く、幹細胞群を識別、追跡、分離するために使用される。

9.プラコード

感覚器などの発生予定領域で作られる肥厚した上皮組織構造のこと。毛包、眼、耳、乳腺、羽毛などは全てプラコードから形成される。

10.幹細胞ニッチ

幹細胞を取り囲む幹細胞固有の微小環境のこと。ニッチは幹細胞にシグナルを送ることで、幹細胞の誘導、維持、分化を制御すると考えられている。

作品の利用について

NIKON JOICO AWARD 受賞作品の利用方法についてご紹介します。

ABOUT HOW TO USE

審査員講評

  • イメージングが学術的に大きな発見に寄与している。
  • 従来の定説を覆し、毛包の幹細胞の発生起源を新たに解明した画期的な研究である。
    芸術的には、蛇が現れて獲物を飲み込もうとしている様子を彷彿させ、驚きと強いインパクトがある。
  • 毛包幹細胞の発生起源がこれまで考えられていた基底上層細胞ではなく、基底細胞であることを1 細胞解像度で追跡することで明らかにした大きな成果である。
  • 学術的には教科書を書き替えるほどの重要な研究である。美術作品としても特に動画の映像は素晴らしい。
  • 生きているものを見ている、というパワーを感じる。
  • 連続した細胞一つ一つの動きが大きな生命のうねりとして感じられ、神秘的な奥行きに引き込まれる。
  • 溶岩が緩やかに周りを侵蝕しながら流動しているようにも見える、細胞の動きや発色が、神秘的で見ていて飽きない面白さがある。
  • マグマのような動きが力強さを感じる。
  • 溶岩が流れ出し、大地が形成される様のようなエネルギーを感じる。