Summer night festival – 人の尿路結石に見られる奇跡の美しさ– 拡大
結石が形成する時には、
まず核形成しやすい準安定相 4(シュウ酸カルシウム 5 二水和物, COD)が結晶化し、
これが徐々に安定相 4(シュウ酸カルシウム一水和物, COM)に相転移していくことで、
緻密で硬くなっていくことを発見した。

由来種         :ヒト
器官・組織・細胞(株)名:尿路結石
染色・ラベル方法等   :非染色
観察手法        :偏光、正立
対物レンズ       :20倍
作品画像取得年     :2021

丸山 美帆子大阪大学 工学研究科 教授
Summer night festival – 人の尿路結石に見られる奇跡の美しさ –
2023 芸術特別賞

受賞コメント

丸山 美帆子

丸山 美帆子

この度の受賞を大変嬉しく思います。
尿路結石症 1 は多くの人々を苦しめる病ですが、特に細胞の外に石が出てからの形成機序が明らではありません。
結石2 内部の構造には形成時のストーリーが隠されています。
初めて結石薄片3 の偏光顕微鏡写真を見たとき、私はその美しさに感激しました。
夏の夜は特に結石症患者の急患が多いそうです。
現時点ではSummer night festival はironic なタイトルですが、今後の研究で「結石なんて怖くない」という世界にしていきたいです。

研究の概要

私たちは、結石に含まれる結晶の状態(結晶の種類、結晶構造、粒径分布など)は患者の尿環境を直接反映しており、さらに結石成長に関わるタンパク質6も内部に分布しているため、結石そのものが体内での結石形成イベントを“記録”していると考えた。
そこで、岩石や隕石の研究で用いられる手法を導入して結石が含む結晶の分析を行い、さらに生物学で用いられる蛍光免疫染色 7法を“硬い組織”である結石に適用することで、結石内部の“記録”を読み解く手法を開発した。
この手法により、結石が形成する時には、まず核形成しやすい準安定相(シュウ酸カルシウム二水和物, COD)が結晶化し、これが徐々に安定相(シュウ酸カルシウム一水和物,COM)に相転移していくことで、緻密で硬くなっていくことを発見 した。
Mihoko Maruyama*, Yutaro Tanaka, Koichi Momma, Yoshihiro Furukawa, Hiroshi Y. Yoshikawa, Rie Tajiri, Masanori Nakamura, Kazumi Taguchi,
Shuzo Hamamoto, Ryosuke Ando, Katsuo Tsukamoto, Kazufumi Takano, Masayuki Imanishi, Shigeyoshi Usami, Kenjiro Kohri, Atsushi Okada,
Takahiro Yasui, Masashi Yoshimura, and Yusuke Mori.
Evidence for solution-mediated phase transitions in kidney stones -Phase transition exacerbates kidney stone disease-.
Crystal Growth & Design. 2023, 23(6), doi: 10.1021/acs.cgd.3c00108

用語解説

1.尿路結石症

腎臓から尿道までの尿路に結石が生じる疾患。生涯罹患率10% 以上、5 年以内の再発率が50% 以上であり、年々罹患率も上昇している。

2.結石

尿の中に含まれている成分が結晶となり、タンパク質なども取り込みながら結晶同士が結合して固くなったもの。
(ここでは特に、尿路結石のことを説明しました)

3.薄片

岩石のような固いものをスライドガラスに張り付けて、研磨剤を使って20 ~ 30μmの薄さまで磨り減らし、顕微鏡で観察できるようにしたもの。
薄片は、透過光や偏光による構成鉱物の観察だけでなく、化学分析をすることも可能。

4.安定相と準安定相

ある環境において、熱力学的に最も安定な相を安定相、これに準ずる相を準安定相と言う。

5.シュウ酸カルシウム

尿路結石に最も多く含まれる結晶成分。
シュウ酸カルシウム一水和物(Calcium Oxalate monohydrate:COM)と呼ばれる安定相、シュウ酸カルシウム二水和物(Calcium Oxalatedy hydrate:COD)と呼ばれる準安定相が結石中によく見られる。

6.尿路結石形成に関わるタンパク質

尿路結石に取り込まれているタンパク質でも100 種類以上が報告されている。
それぞれのタンパク質は、尿路結石形成の結晶核形成、結晶成長、結晶凝集、固化の各過程にさまざまな影響を及ぼすが、その効果は明確ではない。
結石の主成分がシュウ酸カルシウムやリン酸カルシウムであることから、カルシウム結合タンパク質が着眼されて研究されている。

7.蛍光免疫染色

解析対象の標的タンパク質が局在する様子を観察できる手法。
一般的には細胞や組織中の標的タンパク質の検出に用いられるが、本研究では尿路結石という“硬い組織”に対して適用し、タンパク質の可視化に成功した。

8.溶液媒介相転移

溶液を媒介して、準安定相が安定相へと徐々に相転移していく現象。

9.結晶相

固体を構成する原子、イオン、イオングループ、分子などが化学結合により規則正しく並んだ構造を持ち、一定の化学式でその組成を表現できる固体を結晶という。
同じ化学組成で異なった結晶構造を取る場合は、異なる結晶相、あるいは異なる結晶形を示すという。

10.X 線マイクロCT

X 線マイクロコンピューター断層撮影の略称。X 線を照射し、物体の断面画像や立体像をマイクロメートルオーダーで得られる。

作品の利用について

NIKON JOICO AWARD 受賞作品の利用方法についてご紹介します。

ABOUT HOW TO USE

審査員講評

  • 鉱物と化石をモチーフとしたコラージュ作品のよう。抑制されたモノトーン調の中で繊細に発色する箇所が美しいアクセントとなっている。
    しかし尿路結石とは驚き! まさにミクロコスモス!
  • 古代の化石のような繊細さを感じる。細かさと色合いのバランスが良い。このまま額に入れて飾れそう。
  • アンモナイトが見え隠れする美しい壁画のようで、幾重にも重なった輝きが印象的です。
  • アートとして表現された絵のようにみえ、印象的でした。
  • 壁画のような素材感と抽象的な構成・色彩がバランスが魅力的。
  • 絵画を見ている印象。固くなっていく、ということが感覚的に感じられると画像を見てから説明を見た時の納得感があった。
  • 体内に生じる結石の驚くほどの美しさと強烈なインパクトを感じる。
    自然の力によって生まれた黒と白、ブルー、オレンジのコントラストが素晴らしい。