ニコン、超解像マルチカラーイメージングを拡張する「AX NIR with NSPARC」をリリース多分子同時観察でがん・神経疾患の治療標的探索を加速、病態解明と創薬研究の前進に貢献

2025年4月22日

株式会社ニコン(以下、ニコン)は、体内におけるタンパク質や脂質など複数分子の相互作用を高精度に可視化する超解像共焦点顕微鏡システム「AX NIR with NSPARC」を開発し、2025年4月30日より株式会社ニコンソリューションズを通じて販売を開始します。

本製品で新たに実装したのは近赤外光を活用した超解像多重染色イメージング技術です。蛍光イメージングで用いられる免疫染色法は、蛍光色素を取り付けた抗体を標的のタンパク質等に結合させることで、目には見えない生体内の特定の分子を可視化する研究手法です。従来のシステムでは405 nm~640 nmだった励起波長を、近赤外光を含む405 nm~785 nmまで拡張することで、同一標本観察における蛍光色素間のクロストークを軽減しました。これにより、複数の分子を同時に可視化する際の精度と再現性が向上し、細胞内における分子レベルでの生命現象をより正確に把握することができるようになります。

開発の背景

がんや神経変性疾患などの発症・進行メカニズムには、様々なタンパク質や脂質といった複数の分子が複雑に関与していることが明らかになってきており、病態や創薬の研究の現場でこの解明が重要な課題になっています。特に個別化医療の実現に向けては、患者個々の体内で起きている分子レベルの変化をより詳細に把握することが必要です。本製品は観察可能な波長を近赤外側に拡張することで、相互作用を同時に観察可能な分子の数を増やすことを可能にします。

既存のAX/AX R with NSPARCユーザーに対しては、ソフトウェアアップデート及び励起レーザーの追加等により、同等の機能を実装することが可能です。これにより、既存ユーザーも最新の研究ニーズに対応できる環境を整えることができます。

発売概要

商品名 超解像共焦点顕微鏡システム「AX NIR with NSPARC」
バージョン NIS-Elements C/ C-ER Ver6.20以降
提供開始時期 2025年4月30日より順次

主なアップデートの特長

1. 超解像多重染色イメージングによる高精度な分子間相互作用の可視化

「AX NIR with NSPARC」は、長波長の近赤外蛍光色素に対応することで、細胞内での分子間相互作用を超解像で観察する際に各分子を識別する蛍光色素の選択肢を増やします。これにより、製薬企業の研究開発部門では、新薬候補化合物の作用機序解明における複数の標的分子の同時観察や、薬剤耐性メカニズムの解明に向けた細胞内シグナル伝達の包括的解析が可能となります。さらに、アカデミア研究機関では、がん細胞における複数の治療標的分子の相互作用研究や、神経変性疾患における異常タンパク質の蓄積過程の解析に活用することができます。

左上:重ね合わせ像。中上:核 405 nm 励起。右上:アクチン 488 nm 励起。
左下:微小管 561 nm 励起。中下:細胞膜 640 nm 励起。右下:ミトコンドリア 730 nm 励起。

2. クロストークを低減した再現性の高いデータ取得

今回のアップデートにより、長波長の近赤外蛍光色素を利用可能になることで、同一標本観察における蛍光色素間の混同や重なりなどのクロストークを低減し、より正確で再現性の高いデータ取得を実現します。これにより、研究結果の信頼性が向上し、創薬研究における意思決定の確実性を高めることが可能となります。特に、薬効・薬理の解明のための複数経路の同時観察や、基礎生命科学研究における細胞内分子動態の解明において、その効果を発揮します。

黄: Alexa Fluor 568-チューブリン。白(近赤外): Alexa Fluor 790-ミトコンドリア。

【ニコン 専務執行役員 ヘルスケア事業部長 大村 泰弘のコメント】

AX NIR with NSPARCの開発は、ニコンのヘルスケア事業における重要な一歩です。本製品は、特にがんや神経変性疾患などの複雑な疾患メカニズムの解明に貢献することを目指しています。近赤外光プローブを活用した多重染色イメージング技術により、これまで困難だった複数分子の同時観察における精度と再現性を向上させました。

創薬研究の現場では、個別化医療の実現に向けて、より詳細な分子レベルでの理解が求められています。本製品は、この要求に応える高度なソリューションとして、医療や創薬研究のブレークスルーに貢献できると確信しています。

ニコンは今後も、光学技術を核とした革新的なソリューションの開発を通じて、医療の発展と人々のクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献してまいります。

ニコン ヘルスケア事業について

ヘルスケア事業部は2017年、医療機器を扱う「メディカル事業推進本部」と生物顕微鏡などを扱う「マイクロスコープ・ソリューション事業部」を統合することで誕生しました。現在、「ライフサイエンスソリューション」、「アイケアソリューション」、「細胞受託生産ソリューション」の3つのソリューションを展開しています。

ライフサイエンスソリューション」は、バイオサイエンスや医学の分野において、生細胞の構造や動きをナノスケールで観察する超解像顕微鏡その他で新たな知見の獲得などをサポート。また再生医療・創薬の分野では、細胞の品質を評価する細胞培養観察装置や細胞関連のサービスを通じて治療や新薬開発に貢献しています。

アイケアソリューション」は、超広角走査型レーザー検眼鏡による高精細な網膜画像の取得を支援し、眼科領域における疾病の早期発見と治療に貢献します。さらに糖尿病などの内科領域の全身疾患の早期発見と治療にも寄与しています。

細胞受託生産ソリューション」は、細胞生産プロセスをサポート。製造設備・オペレーション・品質管理システムで、製薬会社、バイオベンチャー分野に再生医療用細胞、遺伝子治療用細胞の受託開発・受託生産を提供し、再生医療の発展に貢献しています。

ニコンのヘルスケア事業は、イノベーションを通じて、人々のクオリティ・オブ・ライフの向上に貢献しています。

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