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再生医療分野での画像解析技術の貢献

公開:2022.04.22

再生医療の本格的な普及が注目されているなか、細胞そのものが薬となる再生医療等製品の品質の鍵を握るのは、細胞を安定的に培養するための工程管理と、細胞に対する的確な品質評価です。

そのためには、まず細胞の特性をよく理解したうえで、細胞の特性と相関した指標を用いて、製造工程中や最終製品の細胞の品質を評価することが重要です。

また、これらの指標を用いながら再現性の高い製造工程を構築する必要があります。

そこで、細胞の製造工程構築や品質管理において近年導入されている画像解析の技術について紹介します。

これまでの再生医療の歩みと今後の役割

再生医療

再生医療とは、患者自身あるいは健常人ドナー由来の幹細胞(ステムセル)などを用いて、損傷してしまった身体の機能を再建、修復または形成したり、疾病の治療や予防をしたりする医療分野です。

再生医療が注目を集める理由は、従来の外科的手法や医薬品では治療が困難な臓器の損傷や疾病、例えば脊髄損傷や重症心不全、パーキンソン病などを治療できるのではないかと考えられるためです。また、加齢黄斑変性のように加齢に伴う疾患は、高齢化によって患者数が増えると予想されており、治療法の確立が求められています。これらの疾患に対して、安全性と有効性が示された再生医療等製品が続々と開発されることで、一般医療としてのジャンルの確立とさらなる普及が期待されています。

再生医療等製品の開発は、日本をはじめとした各国で、すでに30年以上前から活発に行われています。その原材料には主として、体性幹細胞やMSC(間葉系幹細胞)などが用いられていましたが、1998年のヒトES細胞の樹立、さらに、2007年のヒトiPS細胞(ヒト人工多能性幹細胞)の樹立により、様々な種類の細胞を用途に応じて使い分けることができるようになりました。日本では、2014年に再生医療に特化した薬機法*と安全確保法**が施行され、開発、上市への道のりが整備されました。

*:医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律。医薬品医療機器等法とも略される**:再生医療等安全性確保法

以上のような細胞の選択肢拡大と法整備により、再生医療等製品の開発はスタートアップ企業や大手製薬企業の新規参入に加え、周辺産業も盛り上がりを見せるなど、大きな広がりを見せています。

高い品質管理基準が求められる再生医療向け培養細胞

細胞培養

再生医療では、細胞を患者に移植し、細胞のはたらきを利用して治療を行います。つまり、細胞そのものが薬となるのです。従来の医薬品製造が規制にのっとり厳しい管理下で行われているように、再生医療等製品である細胞の製造、すなわち細胞培養にも厳密な管理が求められます。

再生医療等製品を上市するために薬事当局から承認を得るには、製品の有効性及び安全性に関する十分なデータを準備するだけでなく、GCTP(Good Cell and Tissue Practice)に適合した製造システムを構築する必要があります。GCTPとは、再生医療等製品を一定の品質で製造するために厚生労働省が定めた品質管理基準で、これに適合するにはSOP(標準操作手順書)の作成や、必要な人材の確保、教育訓練などが求められます。

細胞培養における現場の課題

細胞培養の現場

現在の再生医療等製品の製造工程は、多くの場合において作業者の手作業によって行われています。柔軟な対応が求められることも多い開発段階においては、手作業にはさまざまなメリットがありますが、その反面、属人的であるがゆえに引き起こされる課題もあります。

細胞懸濁や播種、培地交換、酵素処理といった細胞培養工程の各操作は、作業者によってその所要時間や動作の強弱などが異なります。これらの違いは細胞が受ける物理的影響の差であり、つまりは細胞の性質をばらつかせる原因となります。その細胞の性質の多くは、形態的・数量的特徴や挙動といった指標を用いて評価することができます。さらに、安定的に製造が行われているかを判断する工程内管理、例えば細胞の増殖度合いや細胞分化の度合いといった管理においても、形態的・数量的特徴や挙動を用いた指標が有効な場面が多くあります。

現在、これらの指標は、顕微鏡を用いて作業者の目視によって判断されています。細胞の形態を指標とした細胞の特性や状態の位相差顕微鏡による測定は非破壊検査であるため、貴重な細胞をロスすることなく測定・解析が可能であり、少量の細胞を扱うことが多い再生医療等製品の開発・製造においては、大きなメリットとなります。加えて、再生医療等製品の製造工程においては、次の工程に移行してよいかを細胞状態をもとに判断する場合が多くあります。しかし、細胞状態の判断に時間を要する測定方法では、測定結果が出るまで一旦製造工程をストップさせるしかなく、その間に細胞にダメージを与えてしまいます。また、工程をストップさせることなくそのまま培養を続けたとしても、サンプリング時点の細胞の状態と現在の培養細胞の状態にはすでに差異があるため正確な判断ができないといったリスクが生じてしまいます。そのためにも迅速に測定できる細胞の形態を指標とした測定方法は重要なのです。

このように、作業者の間で細胞に影響を及ぼすような技術差が存在したり、重要な判断が異なったりすれば、培養プロセスの安定化にはつながらず、ひいては細胞の品質を保証することは困難です。さらに、同一の作業者であっても、体調や環境によって手技や判断が異なるリスクは否めません。これらの差やリスクを防止するためには作業者の確保や教育が重要ですが、現実にはコストや時間の制限もあるため、解決は容易ではありません。

画像解析技術の導入から始める、細胞品質評価の定量化と自動化

画像解析技術の導入

目的の品質基準を満たす細胞を今より安定的に培養するには、一体何から始めればよいのでしょうか。その第一歩として、細胞培養の工程や品質管理における重要な指標のうち、作業者に委ねられている判断基準をできるだけ定量化してみてはいかがでしょう。定量化した基準を設定できれば、客観的に、細胞の状態や製造工程の妥当性を評価することができ、製造工程の改善とともに、細胞品質が安定することが期待されます。また、定量的な判断基準ができれば、それは自動化と相性が良いため、これまで人に頼っていた細胞の品質評価の一部を自動化に導くことができるのです。

そもそも培養細胞の特性を細胞の画像から評価する手法は、「撮影」「認識」「評価」の3つの技術の組み合わせから成り立っていると考えることができます。「認識」と「評価」の工程を自動化するには、まず、画像解析ソフトウエアを用いて細胞の形態的・数量的特徴や挙動に関する情報を解析し、定量的な数値に置き換える工程が必要です。さらにそれらの情報の中から、細胞の製造工程に関わる重要な客観的指標を見つけることができれば、定量的な、細胞の品質管理と製造の工程管理の構築実現に近づくことができます。

このサイトでは、現場で生じやすい課題と、その課題に対する画像解析を用いた解決策を「事例」としてご紹介しています。

細胞培養工程を自動化する取り組みへの画像解析の貢献

細胞培養工程を自動化する取り組み

再生医療で求められる品質基準を満たす細胞やその培養工程をいつでも一貫した基準で評価するためには、画像解析の技術を導入し、「認識」と「評価」の基準を定量化した上で、工程を自動化することが非常に有効です。

また、安定的かつ一定品質の細胞製造を目指し、現在、製造工程の一部あるいは全ての工程に対して機械化、自動化したいというニーズは増しており、その取り組みが始まっています。機械化、自動化への取り組みは、培養細胞の品質向上のみならず、現場の作業量低減やコストダウン、人が介在しないことによる細菌汚染(コンタミネーション)のリスク回避など、多くの課題を解決しうる可能性を秘めています。しかし、手作業による培養工程を機械化、自動化するにあたっては、工程の同等性をどのように確認すべきか、という新たな課題が生じます。そこで重要となるのは、研究や開発段階におけるデータの蓄積です。培養工程中の細胞の形態的・数量的特徴や挙動などの情報を蓄積することは、工程が変更された際の影響を評価するうえで大変役に立ちます。

急速な市場の拡大が予想される再生医療等製品の開発において、画像解析技術の活用は、その国際競争力や企業競争力の鍵を握っていると言えるでしょう。

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