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各幹細胞の種類と特徴

公開:2020.01.20

再生医療や創薬スクリーニングに用いられる幹細胞ステムセル) が、生体内の発生過程において個体を形成するまでの過程をご紹介します。また、多分化能幹細胞や多能性幹細胞に分類される組織幹細胞・体性幹細胞・ES細胞(胚性幹細胞/ESC)・iPS細胞(人工多能性幹細胞/iPSC)についてもご説明します。

幹細胞から個体を形成するまでの過程

ヒトの身体は約60兆個の多種多様な細胞から構成されます。その発端は、受精卵という一つの細胞です。受精卵が細胞分裂を繰り返しつつ、異なる形態・機能を持つ体細胞に分化し、様々な器官・臓器を構築して個体を形成しています。

多能性幹細胞から三胚葉を介したさまざまな臓器への形成

図:多能性幹細胞から三胚葉を介したさまざまな臓器への形成

個体を形成する過程においては、幹細胞が、分裂して自分と同じ細胞を作ることができる「自己複製能力(self-renewal)」をもちつつ、自分とは異なる細胞に変化(分化)して、さまざまな組織が作られていきます。

発生の初期の段階である胚盤胞期の胚には、身体を構成するほとんどすべての細胞に分化可能な細胞が存在します。その細胞を取り出して培養した幹細胞は、身体を構成するほとんどすべての細胞に分化可能なES細胞です。ES細胞とほとんど似た性質をもつiPS細胞と合わせて多能性幹細胞と言われています。多能性幹細胞は内胚葉や中胚葉、外胚葉へと分化することができます。一方、組織幹細胞や体性幹細胞など、限られた複数の種類の細胞に分化可能なものを多分化能幹細胞と言います。

これらの細胞は、特定の細胞に分化させて細胞の性質を調べる基礎研究だけでなく、薬の候補を探す「創薬スクリーニング」や、細胞自体を薬として患者に移植または投与する「再生医療」などでも用いられています。しかし、多能性幹細胞の培養は、従来利用されてきた体細胞とは異なる点が多く、未分化性の維持や、研究結果の再現性の担保が難しいと言われています。

多分化能幹細胞と多能性幹細胞の分類とその特徴

多分化能幹細胞

多分化能幹細胞とは特定の組織・器官を構成する細胞に分化する性質をもつ幹細胞で、組織幹細胞や体性幹細胞などがあります。

組織幹細胞とは、組織の中にあり、分裂して自分と同じ細胞を作ることができる自己複製能力をもちながらも、組織内の細胞に分化することができる細胞です。

体性幹細胞とは、生体内に存在し、限られた複数の細胞に分化できる幹細胞です。体性幹細胞の一つであるMSC間葉系幹細胞)は、骨や軟骨、血管、心筋細胞に分化できる能力をもつ細胞です。MSCは、骨髄、臍帯組織(さい帯組織)や臍帯血さい帯血)、脂肪組織などから比較的容易に得ることができます。

これまでに、抗炎症作用や増殖因子誘発作用、血管新生促進作用などをもち、組織の修復に重要な役割を果たすことが報告されています。また、多能性幹細胞と比較してがん化のリスクが低く、安全性が高いとも言われています。すでに世界中で、脊髄損傷や造血幹細胞移植後の急性移植片対宿主病などの治療用として、承認されている再生医療等製品もあります1)

表:世界のヒトMSCを用いた承認済再生医療等製品例1~6)

スクロールできます

再生医療等製品 承認国 製造販売者 由来MSC 適用
PROCHYMAL® カナダ、ニュージーランド Mesoblast 他家骨髄由来MSC 急性GVHD*(小児)
テムセル®HS注
TEMCELL® HS Inj.
日本 JCRファーマ 他家骨髄由来MSC 急性GVHD*
ステミラック® 日本(条件付承認) ニプロ 自家骨髄由来MSC 脊髄損傷
Heartcellgram-AMI® 韓国 Pharmicell 自家骨髄由来MSC 急性心筋梗塞
Cupistem® 韓国 Anterogen 自家脂肪由来MSC クローン病
CARTISTEM® 韓国、EU Medipost 他家臍帯血由来MSC 変形性膝関節症
Stempeucel® EU、
インド(条件付承認)
Stempeutics
Research
他家骨髄由来MSC 変形性膝関節症
Allostem® 米国 Allosource 他家脂肪由来MSC
(ヒト脱灰骨基質とのコンビネーション製品)
骨損傷
Osteocel® Plus 米国 NuVasive 他家骨髄由来MSC
(骨前駆細胞、およびヒト脱灰骨基質とのコンビネーション製品)
骨修復(361HCT/P)

*GVHD: Graft Versus Host Disease(移植片対宿主病)

多能性幹細胞

多能性幹細胞とは、体を構成するほとんどすべての細胞に分化できる幹細胞です。多能性幹細胞にはいくつか種類があり、現在までに樹立されている多能性幹細胞として、ES細胞、EG細胞(胚性生殖細胞)、およびiPS細胞があります。

ES細胞は受精卵が分裂を繰り返した後の、胚盤胞期の胚の一部から作成される細胞です。国内では、不妊治療で余った廃棄予定の凍結受精卵の提供を受けて、ES細胞が樹立されています。EG細胞は、精子や卵子のもととなる細胞(始原生殖細胞)から作成される細胞で、ES細胞とほぼ同じ性質をもちます。

iPS細胞は体細胞に特定の遺伝子を導入することで未分化の状態に初期化(リプログラミング)した細胞です。iPS細胞の樹立により、ES細胞と同様の細胞をドナーから得ることができるようになりました。

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iPS細胞リプログラミング効率の自動測定により作業効率と精度を改善

疾患を持つ患者さんから組織を提供してもらい、iPS細胞を樹立し、分化誘導して疾患をシャーレの中に再現することも可能です。そのため、iPS細胞を分化誘導して作り出された神経細胞や心筋細胞などの体細胞は、病気の原因解明や薬効、副作用の評価への活用や、細胞そのものを患者に移植する「細胞移植治療」(再生医療)など、新たな治療法として期待されています。

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hPSC由来神経細胞の非侵襲画像解析により長期の神経毒性評価が可能に

しかし、iPS細胞の樹立や、iPS細胞・ES細胞の長期にわたる継代維持などにより、意図しない遺伝子変異が報告されています。これらの遺伝子変異がすべて危険かどうかは現在のところは不明であり、今後の実用化に向けて、安全性をどのように評価すべきか、研究者の間で議論が進んでいます。

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