ユーザーインタビュー《株式会社サイフューズ》CPC内作業も効率化でき、人にも細胞にも優しい作業環境を実現。「過程と結果が紐付くタイムラプス撮影を立体的な組織・臓器作製の指標づくりに活用」
株式会社サイフューズ
主な事業内容
再生医療等製品の開発・製造・販売
お話いただいた方
研究開発部 臨床開発グループ 臨床ファシリティリーダー大島 恵美 さん
研究開発部 基礎研究開発グループ園田 彩奈 さん
採用いただいた
機器・システム
「細胞から希望をつくる」株式会社サイフューズさま(以下、サイフューズ)。同社は、バイオロジーとエンジニアリングを高度に融合させ、独自の革新的技術を搭載したバイオ3Dプリンタを開発。細胞だけで血管などの立体的な組織を作製することに成功し、再生・細胞医療分野の飛躍的な進歩に大きく貢献しています。ニコンのBioStudio-Tは高画質なタイムラプス撮影などにより、再生医療の産業化の前提となる立体的な組織・臓器作製の指標づくりの効率化をお手伝いしています。今回は実際に作業にあたっている大島さん、園田さんに、BioStudio-Tの使い勝手や効果などについてお話を伺いました。
目次
表示サイフューズさまのイノベーション
細胞だけで立体的な組織や臓器を作製
サイフューズさまでは、再生医療の産業化に取り組んでいらっしゃいますが、どのような治療法を開発されているのか教えてください。
大島さん
はい。私たちは、独自の技術を搭載したバイオ3Dプリンタを使用して立体的な組織・臓器を作製し、患者さまへ移植し、本来の機能を回復させる新しい治療法となりうる「3D細胞製品」の開発を目指しています。これまでの再生医療等製品と大きく違うのは、人工材料は使わずに細胞だけで作製している点です。
サイフューズさまの「3D細胞製品」には、どんなメリットがあるのですか?
大島さん
これまでも、化学物質や動物由来の生体材料でできた支持体と培養細胞のハイブリッドの複合体などはありました。しかし、動物由来物質等の生体材料を用いると、移植後のアレルギー反応による炎症やウイルス混入による感染症などの心配があります。
これに対し、当社の技術を用いて細胞だけで作製した「3D細胞製品」は、このような感染症リスクが一般的に低く、また、本来の組織と同じような厚みや弾力があるので、糸で縫うこともできます。そのため、実際の外科的手術にもご使用いただくことが可能で、当社では現在、共同研究先と共にいくつかの臨床試験を行っております。
どんなプロセスで組織をつくるのか教えてください。
園田さん
まず細胞を十分に増やし、細胞同士が集まっていく性質(細胞凝集現象)を利用して「スフェロイド」(細胞塊)を作製します。このスフェロイドを「剣山」と呼ばれる微細なニードル(針)に積み上げ、立体的な形を作製します。スフェロイドが互いに融合した頃合いでニードルから抜くと、細胞だけでできた立体的な組織ができあがります。この独自の基盤技術によって、さまざまな組織や臓器を作製することが可能になりました。骨軟骨損傷や血管障害、神経損傷など、細胞製の組織や臓器を用いた再生医療等製品の開発に取り組んでおり、現在、臨床試験を実施しているところです。
材料となる細胞は、患者さまの細胞ですか?
園田さん
そうです。患者さまご自身の細胞を使用しています。細胞の種類は作製する組織によって違いますが、「MSC(間葉系幹細胞)」や「線維芽細胞」などを使用しています。技術的には、ヒトiPS細胞も材料にできますので、次世代のパイプラインとして他人の細胞やiPS細胞などを用いた製品開発も進めています。
組織や臓器をつくるには、たくさんの細胞が必要になりますね。
園田さん
そうなんです。一つのスフェロイドは数万個の細胞が集まったものです。例えば長さ数センチの細胞製人工血管を作製する場合、さらに多くのスフェロイドが必要になります。ですので、まず細胞を数億個に増やすことが、細胞製人工血管づくりのスタートになります。
大島さん
一つのスフェロイドは明太子1粒程度(約0.5mm)の大きさです。これを微細なニードルに数個ずつ積み上げるのですが、当初はこの工程を人の手で行っていました。しかし、人の手で作製するには限界があります。そこで私たちは、この作業を機械で自動的に行うために、三次元細胞積層システム機器S-PIKE(スパイク)を開発しました。S-PIKEは言うなれば細胞を材料とする3Dプリンタです。作製したい形の三次元マップを設定することで、いろいろな形や大きさの臓器や組織を、細胞だけで作製できるのが大きな特徴です。
導入前の課題
CPC内の作業効率化で作業者にも細胞にも優しく
細胞の培養や製造において、大変なのはどんなところですか?
大島さん
園田さん
大島さん
インキュベータ内にBioStudio-Tを入れておけば、細胞の状態をCPC外からでも把握することができ、必要な時にだけCPCに入ればよいという、作業者にも細胞にも優しい環境をつくることができます。
導入の効果
指標づくりを細胞の成長過程と結果が紐づくタイムラプス撮影で
実際にBioStudio-Tを研究室やCPCで使ってみていかがでしょうか?
大島さん
培養容器を培養しながらモニターで観察でき、タイムラプス映像も撮影できますので、とても助かっています。
製造工程の開発は、まず研究室で進めてこられたと思います。また、培養工程標準化の基礎的なデータをとるにあたり、具体的にどんな風に役立っていますか?
大島さん
細胞は生き物ですから、それぞれに個性があります。細胞の種類や細胞を育てる培地の種類、その他環境によって、つるんとしたきれいなスフェロイドができたり、ぼこぼこしたものができたり、さまざまな違いが出ます。そのため、細胞にとって一番良い条件を探り出し、良質な細胞を量産するための指標をつくることが、細胞製造の産業化には欠かせません。
そこで、BioStudio-Tによって細胞が凝集する過程をタイムラプス撮影で追い、使用する細胞や培養条件によって、凝集にかかる時間や凝集時の形状にどんな違いがあるかを調べています。この撮影は自動でできますので作業者がCPC内で張り付いている必要がなく、負担が大きく軽減されました。研究室で数多くのデータをとることで、設定した時間幅で安定した品質のスフェロイドをつくるための条件が、かなり明確になってきました。
臨床に応用できる細胞作製を産業化するためには、細胞の種類ごとに最適な増殖条件を見つけ出すことが必要で、そのためにBioStudio-Tのタイムラプス撮影機能が役立っているということですね。
大島さん
はい。しかもBioStudio-Tはタイリング画像を取得できるので、培養容器全体が観察でき、タイムラプス画像を比較すれば違いが一目瞭然です。培養条件の設定にとても役立っています。
製造となると品質管理も大きな課題になりそうです。
園田さん
その通りです。臨床に使える組織や臓器を製造する上で一番重要なのは、何億個もの細胞の品質を高いレベルでそろえることです。そのために開発段階では、細胞の様子を経時観察し、培養の各段階で示される細胞の形や動きなどの特徴が、培養結果とどう関連しているのか把握する必要があります。従来は誰かが実験施設内で定期的に観察するしかなく、20時間以上も顕微鏡から離れられなかったようなケースもありました。
CPCでの製造時にも、中間品の品質管理などの指標としても活かされるのでしょうか?
園田さん
そうですね。細胞を培養しているときには、細胞の形状や増殖の状況、さらには菌による汚染がないことなどを確認しています。現在は人の目で判断していて、作業者の教育を一定に保つことが大きな課題となっていますが、今後NIS-Elementsのような画像解析ツールを導入すれば、品質の維持はさらに簡単になると思います。
目的の実現に最適な装置提案をしてくれる営業体制にも感謝
バイオ3Dプリンタで利用するニードルの検品にも、ニコンの顕微鏡をお使いいただいていると聞きました。
大島さん
今後への期待
食品製造ラインのようにつくることを目指して
このCPCでの治験製造が承認された後の製造の構想や、次の製品についてお聞かせいただけますか?
園田さん
ゆくゆくは機械で作業できる工程は機械に置き換え、リモート機能などもつけて、なるべく人手を介さずに製造できるようにしたいと考えています。ただ、現実的にはまだまだ課題も多く、目の前の課題に着実に取り組んでいくことが先決です。将来は食品のライン製造のように組織や臓器が作製できればいいなと夢見ています。
大島さん
今後は、まずは私たちの技術で作製した臓器を確実に患者さまへお届けできるように開発に取り組むことです。そして、体内にある臓器をすべて作製することができるようになること、その先には各診療科でそれぞれに必要とされる臓器をお届けできるよう、開発に取り組んでいきたいと考えています。パートナー企業の皆さまや医療現場の皆さまのお力をお借りしながら、新しい治療法の選択肢の一つとなるような再生医療等製品を一つでも多く開発していきたいと考えています。
ニコンも最大限協力させていただきたいと考えています。ありがとうございました。
※掲載した情報は取材当時のものです。関連事例
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