花のなかの秘密 拡大
小さな花の奥深くで
花粉管がめしべの中を伸びる様子
花粉管を色分けすることで
一本一本の様子を正確に見比べることが出来る

シロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana) の花のめしべ

サンプル詳細:蛍光タンパク質(mApple, Venus, mTFP1)標識花粉管、ClearSeeによる透明化
観察手法:2光子励起顕微鏡、蛍光
観察倍率:25X
撮影年:2015年

水多陽子名古屋大学 高等研究院・トランスフォーマティブ生命分子研究所 特任助教
花のなかの秘密
2019 優秀賞

受賞コメント

水多陽子 特任助教

水多 陽子 特任助教

この度は、記念すべき第一回にこのような大変素晴しい賞を賜り、誠にありがとうございます。

顕微鏡をのぞくたび、予想通りの時と思いがけない世界が広がっている時があり、いつも新鮮な驚きをもって研究しています。
小さな花の中で繰り広げられるダイナミックな植物の受精。私にとってイメージングとは、謎に包まれた世界の一端を垣間見ることができる魔法のような方法です。

この作品が皆様にとって植物、ひいては生物の不思議に想いを馳せる一端となりましたら幸いです。

研究の概要

生物の成り立ちやしくみを知るうえで、からだの構造の観察はとても重要だが、多くの生物のからだは不透明なため、奥深くを見ることは難しい。特に植物は葉緑素に代表されるさまざまな自家蛍光5物質を持ち、屈折率の異なる細胞からできているため、切片の作成や解剖をおこなわずに内部を見ることは困難であった。
本研究では、蛍光タンパク質を残したまま丸ごと植物を透明化する試薬を開発した。ClearSeeと名付けたこの試薬により、モデル植物だけでなくいろいろな植物の透明化が初めて可能となった。これにより、これまで誰も見たことのない植物のからだの奥深くを、構造と蛍光を保持したまま観察できる。
本作品はシロイヌナズナの花に、青、緑、赤の3色の蛍光タンパク質で標識した花粉を受粉し、ホルマリン固定した後にClearSeeで透明化し観察したものである。普段は花の中に隠れて見えない花粉管をカラフルに色分けすることで、めしべの中をそれぞれの花粉管がどのように伸びて受精し、種子をつくるのかを詳細に観察できた。
Daisuke Kurihara, Yoko Mizuta, Yoshikatsu Sato, Tetsuya Higashiyama (2015)
"ClearSee: a rapid optical clearing reagent for whole-plant fluorescence imaging"
Development. 142(23): 4168–4179.

用語解説

1.屈折率

物質中の光の伝播を記述する物理量のひとつ。屈折率の差が大きいほど光が散乱する。

2.受粉

花粉がめしべに付着すること。

3.花粉管

花粉から発芽し、伸張する管状の細胞。

4.葉緑体クロロフィル

葉緑体に含まれ、光合成に関わる色素。

5.自家蛍光

細胞や組織に元から存在している物質に由来する蛍光。

6.抱水クロラール透明化液

植物の固定および透明化に伝統的に用いられている水溶液。

7.蛍光タンパク質

励起光を当てると蛍光を発するタンパク質。GFPは緑色蛍光タンパク質のこと。

受賞者への質問

Q:透明化試薬ClearSeeはどのような技術的背景があり開発されたのですか?

A:植物用の従来の透明化試薬には、構造にダメージを与える、蛍光タンパク質が消失するなどの問題点がありました。近年、動物分野ではScale 溶液やSeeDBなどの透明化法が開発されました。そこでこれらを参考に、上記問題を解決する、植物に最適化した透明化試薬ClearSeeが開発されました。

Q:透明化試薬ClearSeeで透明化が難しい植物はありますか?

A:溶液の浸透しない堅い組織を持つ樹木や、水をはじく表面構造を持つ植物は透明化が難しいです。

Q:花粉管が、束のような構造から下に行くにつれ、同じ花粉由来の花粉管で収束しているのはなぜですか?

A:画像はめしべの奥に向かって撮影した複数の画像のうち、内部がよく分かるよう手前側を除き、奥側のみを合成しています。収束したように見えるのは、手前側の花粉管の像が除かれているためです。

Q:クロロフィル以外にイメージングの妨げになる物質はありますか?

A:細胞壁に含まれるリグニン(高分子のフェノール性化合物)が妨げとなります。

審査員講評

  • ClearSee という植物組織の透明化、組織観察のための新しい手法の開発をベースとし、この方法を花粉管の伸長の過程に適用して、構造を維持したまま個々の花粉管の形態を解析することに成功した点は高く評価できる。二光子励起顕微鏡による画像もきわめて美しく、花の中にもう一つの花が咲いているようにも見える。
  • 色とりどりの花束のようで純粋に美しい。植物の生物学として学術的にレベルの高い研究である。
  • 植物の内部構造および内部細胞を研究するために重要な透明化技術を開発した研究である。植物研究に幅広く貢献する可能性を持ち、極めて重要な技術である。
  • 花の内部にもこのような綺麗な構造があることは、非常に驚きであり、色鮮やかで極めて美しい作品である。将来的には、この3D画像も見るのが楽しみに思われる。