INTERVIEW

佐田亜衣子 特任准教授

2020 NIKON JOICO AWARD の最優秀JOICO賞を受賞した熊本大学 国際先端医学研究機構(IRCMS)の佐田亜衣子 特任准教授。今年はオンラインでの授賞式となりましたが、最優秀JOICO賞受賞作品『皮膚再生を司る上皮幹細胞コンパートメント〜見ることで見えてくる幹細胞の不思議〜』についてさらに踏み込んだ内容や顕微鏡観察、そして研究の面白さについて、わかりやすくお話をいただきました。
研究内容


この度は最優秀JOICO賞おめでとうございます。

― ありがとうございます。

早速ですが、佐田先生のご研究内容について聞かせてください。今回受賞された作品では「皮膚」がテーマですが、我々にとって身近な皮膚、先生のご研究からまだ解明されていないことが多くあると感じました。まず質問ですが、今回先生が発見された基底層に局在する2つの分裂頻度の異なる表皮幹細胞から分化した細胞は同一の細胞なのでしょうか?

― それはすごく良い質問で、答えは分かってないというのが答えだと思います。
表皮は全部で4層ありますが、本来なら分化細胞は1種類、最終的には角化して表皮のバリア機能を果たします。そして、この分化の経路は本来1つと考えられていましたが、基底層にヘテロな集団が存在することがわかっています。最近の知見では、シングルセル解析から分化細胞の中にも不均一性があるんじゃないかということも示唆されています。
そうすると、今回の顕微鏡画像でみられるような基底層にいる分裂頻度の違う細胞がたどる運命をすごく観察することが大切と考えています。

再生医療分野において、皮膚は表皮シートなど研究が非常に進んでいます。先生の知見を基にすると、シート状になっている細胞は1種類の幹細胞から分化したものなのか、それとも元々分裂頻度の異なる幹細胞から分化した細胞が混ざっているのか、わかっていることはあるのでしょうか?

― 表皮のがん細胞を培養してそれをシートを作って移植するという過程で培養した幹細胞はある程度セレクションがかかります。より幹細胞能の高いものが最終的にシートとして残り、移植した際の生着率が高いことが分かっています。
ただ、今回発見した分裂頻度の違う表皮の幹細胞集団があの表皮シートの中でどのように位置しているのか、その幹細胞集団が本当に表皮の再生や移植に寄与しているかについては分かっていません。
また、この幹細胞集団に着目している研究者が世界でもまだ数グループしかいません。
みんな違う観点から研究しているので、表皮シートの中に残ってる幹細胞集団をどうやってどのマーカーを使って規定するのか、何を幹細胞と考えて実験するのか、など解釈が違います。そういったことからも、表皮シートで今回撮影した2種類の幹細胞がどう振る舞うかについては今後の研究の重要な課題であると考えています。

先生の今回ご研究から得られた知見のように、皮膚以外の組織でも分裂頻度の異なる幹細胞が存在する可能性はあるのでしょうか?

― はい、あると思います。 私たちの研究では皮膚以外の組織、例えば目の角膜、結膜、あと口腔を対象にしています。これらの幹細胞集団は性質的にも皮膚の表皮にすごく似ていて、分裂頻度の違いによるコンパートメントが存在します。
面白い点は、上皮といっても、例えば小腸とか食道といった体の中の組織へいくと幹細胞システムが異なります。例えば、小腸の上皮では分裂頻度の違いによるコンパートメントがあまり見られません。この違いは発生の由来です。

発生の由来というのは、内胚葉・中胚葉・外胚葉といった分類でしょうか?

― そうです、先ほどお話した表皮などは外胚葉由来です。内胚葉、中胚葉由来の上皮だと少し性質が違うんですよね。
分裂頻度の低い細胞は、古典的に着目されていた集団で、体のあちこちに、また特定の位置に存在します。「これは何だろう?」ということで1980年ごろから研究が進められてきました。

コンパートメントの制御がまだ分かっていないということでしたが、これから先生のご研究がどういう方向に進まれていくのか非常に興味があります。もちろんご研究はイメージングだけで進まないと思いますが、「みる」という点から今後トライしてみたいことは何かございますか?

― イメージングで研究を進めていくグループは世界中に多くあります。
まず「何をみるのか」。
「今まで見れなかったものをみる」「解像度高く高微細な構造をみる」という方向に行くのか、逆に、例えば「マウスをまるごとイメージング」といった研究も最近他のグループから出ています。
またあとは「何をプローブにするか」というところでは、我々の強みはマウスの遺伝学的な方法を使って出来るという点が挙げられます。
今回の仕事でもイメージングだけではなく、実際に結果として見えるところにやはり新しさがあると思います。今後は、マウスの遺伝学的アプローチと組み合わせる。あとは代謝のイメージングなど特殊なプローブなどと顕微鏡を組み合わせることによって、今まで見えてこなかった現象が見えてくると考えています。他にもライブイメージングとかもやりたいですね。
それをやろうかなっと思ってもう1年経ってしまいました。本当は生体イメージングも皮膚は比較的やりやすくて、すでにイメージングしている研究者も多いですけどね。

皮膚の生体イメージングというのは、直接レンズを刺すような形ですか?

― そうです。のぞき窓みたいなものをマウスの背中にくっつけることで撮影します。昔コーネル大学にいるとき少しだけやっていたんですけど、共同研修者の人にやってもらってました。でもマウスって毛がすごく生えているので、背中の毛が表皮見るには結構邪魔なんです。毛の自家蛍光がかなり強いので、表皮の例えば蛍光ラベルしてる細胞見るとか結構困難で、みんな耳を見たりとか、普段あんまり解析に使わない部位をイメージングに使ったりしているんですよね。

毛に自家蛍光があるのは知りませんでした。毛のないマウスとかありますよね?

― あります。毛のないマウスを使うっていうのは手ですよね。それはすごいごもっともだと思います。でもあれは表皮の方にも少なからず影響があるので、ノーマルのものを見ているのかちょっと分からないですね。

先生、今日は様々なご研究のお話を聞かせていただきありがとうございました。改めて最優秀JOICO賞の受賞、おめでとうございました。

― ありがとうございました。