Well-Being有明のノリのおいしさを見守る

日本を代表する食品の一つであるノリ。中でも生産量トップの有明海産のノリは、口どけが良く、すぐにうま味を感じられるのが特徴です。福岡県の有明海で試験・研究や養殖を支援している福岡県水産海洋技術センター有明海研究所では、ノリの成長や環境を見守るため、ニコンの顕微鏡を活用しています。

有明のノリのおいしさを見守る
- そこに、ニコンの顕微鏡 -

福岡県水産海洋技術センター 有明海研究所にて、のり養殖課主任技師の安河内さんにインタビュー。おいしいノリを育てるための取り組みと、ニコンの顕微鏡がどのように役立っているかを伺いました。

有明海産のノリ、おいしさの秘密は?

おにぎりに、お寿司に、お餅に、和食には欠かせないノリ。その歴史は古く、日本では縄文時代から食べられ、701年に完成した大宝律令には租税の一つとして記載されています。
海外では、見た目から"カーボンペーパー"を連想させると敬遠されたこともありましたが、今では寿司に代表される和食ブームとともにファンを増やしています。タンパク質や食物繊維、ビタミン、カルシウム、EPA、アミノ酸などを豊富に含むヘルシーフードであることも、人気の一因のようです。

ところで、そもそもノリとは何か、ご存じですか? 広い意味では水中の木石などに付着するコケ状の海藻全般を指します。ヌルヌルしたものを意味する『ヌラ』が、ノリの語源だとされています。私たちがよく目にする『板ノリ』は、スサビノリやアサクサノリなどの海藻を紙のように漉き、乾かして板状にしたもの。現在はほぼ養殖で生産され、年間生産量は日本全国で約80億枚にものぼります。
ノリは日本全国で生産されていますが、実はその半数以上が有明海産(佐賀県、福岡県、熊本県)です。なぜ、有明海は群を抜く産地なのでしょう。

養殖年度の過去5カ年平均H25~H29

その答えは、環境にあります。有明海は伊勢湾とほぼ同じ大きさの袋状の湾。遠浅で広大な干潟が発達し、筑後川をはじめとするたくさんの河川が流れ込み、ノリの生育に必要な栄養塩(窒素やリンなど)が豊富です。さらに干満の差が最大で6メートルもあるため潮流も速く、ノリが栄養塩を吸収しやすいなど、有明海特有の環境からノリ養殖の適地となっているのです。
さらに、こうした干潟を利用した養殖方法が、有明海産のノリ特有のおいしさを育んでいると、福岡県水産海洋技術センターの安河内雄介さんは教えてくれました。
「ノリの味は含まれているアミノ酸(うま味成分)の量ではなく、ノリから溶け出すアミノ酸量で決まります。有明海産のノリは口どけが良いのが特徴で、舌に乗せるとアミノ酸がすぐに溶け出してくるため、おいしく感じます。遠浅の有明海では、漁場に支柱を挿し、そこにノリ網を張る『支柱式養殖』を行っています。この方式では干潮時に網が海の上に露出します。これを『干出』といいますが、この養殖方法が口どけの良さにつながっていると考えられています」

福岡県水産海洋技術センター
有明海研究所 のり養殖課主任技師
安河内雄介さん
有明海(福岡県)での支柱式養殖(満潮時)。
干潮時にはノリ網が完全に露出する(干出)。

おいしさを支える活動に、顕微鏡も一役。

安河内さんが所属する福岡県水産海洋技術センター 有明海研究所 のり養殖課では、漁場(養殖場)の栄養塩や病害等の調査を定期的に行い、ノリ漁師さんへ情報を提供しています。また、養殖技術や品種の開発、病害対策、漁場環境調査など、ノリ養殖の安定生産を図るための試験研究も行っています。そして、それらの要所要所で、ニコンの蛍光顕微鏡が活用されています。
ノリの養殖には、大きく採苗(ノリ網に殻胞子を付着させること)前と採苗後の二つの工程があり、そのどちらでも顕微鏡が使われます。

福岡県水産海洋技術センター 有明海研究所
有明海のノリ養殖

採苗前の工程とは、ノリの“種”になる胞子を形成する糸状体を、春から秋にかけてカキ殻の中で育てるものです。カキ殻糸状体の培養は、マリモ状のフリーリビング糸状体を細断し、水槽に並べたカキ殻に蒔き付けることによって始まります。カキ殻に潜って成長した糸状体には、夏から秋にかけて胞子が形成され、水温の低下とともにカキ殻から多くの胞子が放出されます。

フリーリビング糸状体(右は顕微鏡写真)

「最初に顕微鏡を使うのは、フリー糸状体を蒔いてからおよそ2週間後。カキ殻にどのくらいの密度で糸状体が潜っているか個数を計測します。次が、夏場、カキ殻糸状体にどれぐらい胞子ができているか、形成量を観察します。さらに秋には、採苗日に向けて、カキ殻糸状体の中に形成された胞子の成熟度合いを確認します」
成熟した胞子を網に付着させる採苗が行われると、以後は海が舞台となります。
「採苗後はノリ網を一部カットし、胞子がどれぐらい定着しているかを蛍光顕微鏡で確認します。さらに、9月から3月までの間、19カ所の調査地点で海水を採取し、研究所で水質や栄養塩の量、栄養塩をノリと競合する植物プランクトンの種類や量などを調べます。また養殖中のノリの病害観察も行っています。この時にも顕微鏡は欠かせません。調査の結果は、福岡有明海漁業協同組合連合会を通じて各組合やノリ漁師さん方に提供しています」

ノリと競合する植物プランクトン

栄養塩を吸収し、ノリ養殖に影響を与える植物プランクトン。左がコシノディスカス、右がユーカンピア。

ノリの病気

あかぐされ病
カビの一種に感染して起きる病気。乾燥に弱いため、干出で対策。
潮位に応じた適切な網の高さを漁業者に指導している。
壺状菌病
ツボカビモドキ属の仲間が寄生して起きる病気。早め早めの採摘で対策。

未来へ続く品質管理と安定生産の取り組み。

安河内さんたちの取り組みは、単に情報提供だけにとどまりません。顕微鏡は各漁業協同組合にもあり、ノリ漁師さん個人が所有している場合もあります。そこで、安河内さんたちは、顕微鏡を抵抗なく使っていただけるよう、2日間の顕微鏡講習会を毎年開催しています。
「毎年10名程度の方に参加いただき、使い方を勉強してもらっています。おかげさまで参加者からは、一通り使えるようになったという声をいただいています」
またノリ養殖を安定させるために、有明海の福岡県海域で重要な漁業対象種となっているアサリを増やす研究も行っています。アサリはノリと競合する植物プランクトンをエサとして摂取し、しかもノリに必要な栄養塩を排出します。アサリは、ノリの生育に深く関わっているのです。
「ノリの養殖は天候に大きく左右されます。やはり気になるのは、気候変動です。これからも顕微鏡を活用しながら、ノリの養殖が安定的に行えるよう漁業者の方々をサポートしていきます。また、近年の和食ブームで、海外にもノリの存在が知られるようになりました。海外の方も含めて、1人でも多くの方に、おいしい有明海産のノリを召し上がっていただきたいと思います」
ノリの品質管理や安定生産のための調査や研究など活躍するニコンの蛍光顕微鏡。ニコンはこれからも、おいしいノリを見守るためのさまざまな活動に、事業を通じて貢献していきたいと考えています。