ユーザーインタビュー《千代田化工建設株式会社》誰でも同じ条件で全面タイリング画像をタイムラプス撮影可能。「品質管理のベースになるデータが確実に取得でき、細胞製造の事業化への道も見えてくる」

公開:2021.08.30
誰でも同じ条件で全面タイリング画像をタイムラプス撮影可能。「品質管理のベースになるデータが確実に取得でき、細胞製造の事業化への道も見えてくる」

千代田化工建設株式会社

主な事業内容

総合エンジニアリング事業(ガス、電力、石油、石油化学、一般化学、医薬品等の設備並びに公害防止・環境改善・保全及び災害防止用等の設備に関するコンサルティング、計画、設計、調達、施工、試運転及びメンテナンス等、石油・天然ガスその他鉱物資源の開発、関連事業に関する投融資)

お話いただいた方

ライフサイエンス事業部伊藤 弓弦 さん(筑波大学 生命環境系 教授 兼任)

採用いただいた
機器・システム

細胞観察装置BioStudio-T*
*製品の生産は終了しています。細胞培養・アッセイに関して、また製品についてのご質問等は、お問い合わせフォームよりご連絡ください。

エンジニアリングでインフラを創造し、世の中のさまざまな問題を解決している千代田化工建設株式会社さま。同社では世界のUnmet Medical Needsの拡大を捉え、より付加価値の高いバイオ・ライフサイエンスのソリューションプロバイダーとなるべくライフサイエンス事業に注力しています。誰もが同じ条件で撮影できるニコンのBioStudio-Tシリーズは、細胞量産の条件解析に耐える画像データの取得を通じて次世代製造プロセス技術の確立に貢献。同社が目指す細胞培養のCRO事業、CDMO事業への参入をお手伝いしています。今回は、研究を主導している伊藤さんに、導入前の課題や導入の効果などについてお話を伺いました。

※本文中敬称略

導入前の課題
細胞培養の条件を評価する際には、日間・作業者間・施設間など、さまざまな条件で評価する必要がある。しかし、取得するデータの測定条件をそろえなければならないことが難しかった。
導入の効果
誰でも同じ条件で観察・撮影できる。タイリング画像により偏った情報ではなく、全体像が把握できる。これらの機能にプラスして、タイムラプス撮影で細胞全体の経時的変化を把握することができるため、品質のばらつきの原因をさかのぼって追究できる。また、そのデータがきちんと画像として保管されるため、社内外の人たちと共通理解できる。
今後への期待
細胞観察は誰もが認める品質管理の手法であるため、研究・開発・製造の各場面において関係者の共通理解の基盤となる。だからこそ、細胞観察・撮影やデータの表現方法に関するスタンダードづくりのサポートを期待したい。

目次

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  1. 千代田化工さまのイノベーション
    1. 細胞培養プロセスの工業化とCRO事業・CDMO事業への参画を目指す
  2. 導入前の課題
    1. 撮影条件をそろえることが、現象の共通理解に必須
    2. 全体像を見て、細胞の気持ちを理解する
  3. 導入の効果
    1. 品質がバラつく原因を、条件のそろったタイムラプス撮影で追究
    2. BioStudio-Tで、細胞の品質管理に欠かせないデータを取得
  4. 今後への期待
    1. 細胞観察・撮影やそのデータの共有を促進するスタンダードづくりを

千代田化工さまのイノベーション

伊藤 弓弦 さん

伊藤 弓弦 さん

細胞培養プロセスの工業化とCRO事業・CDMO事業への参画を目指す

千代田化工建設さまと言えばケミカルとエネルギーの総合エンジニアリング企業というイメージがあります。設計(Engineering)・調達(Procurement)・建設(Construction)を行うEPC事業者である御社が、なぜ再生医療を手がけるのか教えてください。

伊藤さん

伊藤さん

もともと私たちは、さまざまな企業さま向けにご希望を反映した設備をつくることを得意としています。ライフサイエンス領域でも、低分子医薬品(製剤・原薬)の製造施設の設計建設分野で40年以上に渡って活動し、400件を超える実績を重ねています。さらに現在では、バイオや細胞技術の知見を広げ、高分子医薬品や再生医療など新規分野の施設の実績も積み上げつつあります。そこで2021年4月にライフサイエンス事業部を立ち上げ、細胞拡大培養プロセスの工業化、細胞培養のCRO事業とCDMO事業への挑戦をスタートさせました。

再生医療等製品は今まさに拡大中の市場ですね。

伊藤さん

伊藤さん

そうですね。まだまだ市場規模は大きくありません。弊社にとっても、再生医療等製品に関するCDMO事業を軌道に乗せることは、チャレンジングだと思います。そうした中で、まず私たちとしては細胞をきちんと理解し、適切に品質管理できるようになる必要があると考えています。そのため現在は、筑波大学の特別共同研究事業制度を活用して大学内に設置した培養室で細胞培養を行い、セルベースアッセイによる研究を通じて知見を積んでいるところです。

導入前の課題

左が細胞の状態がわかりやすい条件で撮影した画像。右の画像は露出条件などが悪いため、血管のつながりがわかりにくく(矢印)、評価しにくい。また、毎日同じ位置で撮影することも難しかった。

左が細胞の状態がわかりやすい条件で撮影した画像。右の画像は露出条件などが悪いため、血管のつながりがわかりにくく(矢印)、評価しにくい。また、毎日同じ位置で撮影することも難しかった。

撮影条件をそろえることが、現象の共通理解に必須

研究を進める中で、どんな課題が見えてきましたか?

伊藤さん

伊藤さん

一言で「細胞培養」と言っても、奥が深すぎるところでしょうか。毎回同じ実験をするためには、適切に細胞培養条件をそろえる必要があります。その際、気にしなければならない条件が多すぎる、というか、どの細胞培養条件が培養の安定性に影響するかが分かりにくいという問題があります。さらには、適切な培養条件を見つけるために多くのメンバーで情報を共有しながら、さまざまな試行錯誤が必要となります。しかし、細胞の状態を正確に捉え、記録に残し、伝え合うというのは、本当に難しいです。

クリアするのが難しそうな課題ですね。

伊藤さん

伊藤さん

そのため、私たちは、日間・作業者間・施設間など、培養条件を変えてデータを取っています。細胞の品質は、形や動きに現れます。ですから、細胞培養では、細胞の形や増殖速度、増殖度など細胞の状態を知るために有効なデータとして、顕微鏡観察とその画像データが欠かせません。しかしその画像データが「意味を持つデータ」であるためには、そのデータの測定条件がそろっている必要があるんです。

全体像を見て、細胞の気持ちを理解する

もう少し詳しく教えてください。

伊藤さん

伊藤さん

大きな課題が二つありました。一つは、画像データの信頼度をある一定の基準に保つことです。特に大学には大学院生から研究員まで、さまざまなバックグラウンドや熟練度を持ったメンバーが在籍しています。しかも、大学の研究室は意外と入れ替わりが激しいんです。実験や解析は同じ条件で繰り返す必要があり、その記録も経時的に取得しますので膨大な枚数が必要になり、それぞれが同じ条件で撮影されている必要があります。

同じ条件でないと、何か問題が発生した際の原因究明が難しくなりますね。

伊藤さん

伊藤さん

はい。記録する画像の明るさや色味、フォーカスなどがバラバラだと、繰り返し行われた実験結果や複数のメンバーが取ったデータを共通の尺度で比較、理解することができません。したがって、撮影条件などデータ取得に関する知見が失われることを防ぎ、メンバーが入れ替わっても同等のデータ取得体制を確立することが大きな課題だったわけです。

人が変わっても同じように撮影できなければならないということですね。もう一つの課題は何だったのですか?

伊藤さん

伊藤さん

全体像を観察することです。スナップショット(その瞬間を切り取った写真)が、全体を反映した「代表的な像」であるとは限りません。それだけで判断することの怖さを痛感しています。シャーレの中は不均一であり、全体が見えなければ本当の様子はわからないのです。つまり、膨大な枚数を誰でも同じ条件で撮影でき、しかも解析に耐える全体画像が取得できる。この二つの課題を解決できる観察装置が必須だったのです。そこで、撮影条件を数値で設定でき、高精度なタイリング画像をタイムラプス撮影できる細胞観察装置BioStudio-Tを導入することにしました。

導入の効果

明所(インキュベータ外)での撮影条件をそろえるために、遮光カバー(矢印)を自作して追加設置

明所(インキュベータ外)での撮影条件をそろえるために、遮光カバー(矢印)を自作して追加設置

品質がバラつく原因を、条件のそろったタイムラプス撮影で追究

実際にBioStudio-Tをお使いいただいて、どんな効果が得られましたか?

伊藤さん

伊藤さん

やはり同一条件で経時的にデータを得られることです。タイムラプス撮影したデータを解析することで、途中経過がよくわかります。同じ作業していたはずなのに異なる結果が出た、そんな時にさかのぼって原因を追究することができます。現象の理解度が向上するとともに、取得したデータを社内外の方々と正確に共通理解することが容易になりました。

どの作業工程でばらつきが出やすいのか突き止められるということですね。

伊藤さん

伊藤さん

そうです。細胞を使った作業工程では「細胞の気持ちを理解すること」がなにより大切です。細胞の気持ちを知るために、私たちはこれまで経験の無い細胞培養実験を立ち上げる時は、特に時間を細かく刻んで観察しています。最初にたくさんのデータを取ることが大事なんです。そうしてエビデンスを蓄積しておけば、後の開発フェーズの効率化にもつながります。研究や開発の初期フェーズでは膨大な枚数の写真を撮影することになります。撮影のばらつきは1人の人間の中ででも起こりうることがですが、人の入れ替わりの激しい組織であればなおさらです。それだけに、撮影条件を数字で設定でき、誰がいつ行っても同じように撮影できるBioStudio-Tは、私たちが目指す細胞の次世代製造プロセス技術の確立には欠かせない存在です。

BioStudio-Tで、細胞の品質管理に欠かせないデータを取得

具体的には今は何を撮影されているんですか?

伊藤さん

伊藤さん

例えば血管内皮細胞よりつくった血管網を撮って、長さや分岐数などを画像解析しています。露出はもちろん、背景とのコントラストによっても見え方が異なってします。画像解析する際に、同じように撮れていないと写っているのが血管か、死細胞か、はたまた足場として用いているゲルの模様かどうかの認識がばらつきます。BioStudio-Tの導入で最適な撮影条件に統一することにより、同じアルゴリズムで異なる日時・作業者に取得された画像データを比較・検討できるようになりました。

それが製造時の細胞の品質管理につながっていくんですね。

伊藤さん

伊藤さん

はい。細胞の製造は複数の拠点で行われることもあります。ある拠点で確立した技術を他の拠点に移転することもあります。そうした時、同じ文書体系で一つの手順書に基づいて行うことが、非常に重要です。現在、私たちは筑波大学の研究室と子安の研究所(子安オフィス・リサーチパーク)との間で有機的な連携体制を取り、筑波大での実験系を会社内で立ち上げ、同じ品質での培養に成功しています。つくばで立ち上げた研究と同じ結果を子安でも出せる。品質管理という意味では、非常に重要なことです。

血管網形成アッセイの画像

血管網形成アッセイの画像。左は播種4時間後。血管内皮細胞が集まり始めている。右は播種24時間後。血管網が網目状に形成された。

今後への期待

今後への期待

細胞観察・撮影やそのデータの共有を促進するスタンダードづくりを

今後、ライフサイエンス事業を進めていかれるうえで、ニコンに期待するサービスや機能があれば教えてください。

伊藤さん

伊藤さん

細胞観察は誰もが認める品質管理の手法ですが、観察結果を数値化、言語化しにくいため、細胞の形の細かな違いを人に伝えにくいという欠点があります。また、細胞内の現象(代謝能力や分化能力など)との因果関係が証明しにくいという課題もあります。例えば、細胞が剝がれて丸まってしまう。その原因は一つではないんですね。「剝がれた」という画像情報をもとに、そこで何が起きているのかというバックグラウンドとどうつなげていけば良いのか。イベントと細胞内現象をつなぐためには、どのパラメータを記録すればいいのか。そうしたことを、ライフサイエンスに関わる者が総力戦で突き止めていければ理想的です。

One Teamでのチャレンジですね。

伊藤さん

伊藤さん

ニコンさんには、撮影手順の標準化に向けたガイドラインみたいなもの、みんなが「それでやってみようか」「画像データを持ち寄って、協力して解析してみようか」と思えるような、マインド共有のためのきっかけづくりをお願いしたいですね。ちょっと難しく言うと、「Cell Morphologyを客観的指標で記載するうえでのストラテジーを、顕微鏡画像という観点から体系化してもらいたい」ということでしょうか。その指標に意味づけをするのは私たち現場が主体となって行うべきでしょうが、サポートをいただければ大変助かります。

ニコンもできる限りお手伝いしていきたいと思います。ありがとうございました。

※掲載した情報は取材当時のものです。

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