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画像解析に適した細胞の位相差画像撮影において留意すべきポイント

公開:2020.09.30

顕微鏡による、細胞の各種観察方法」では顕微鏡の原理について、「細胞画像における画像解析」では画像解析の一般的な手法についてご説明してきました。
ソフトウェアによる画像解析は大量の画像を効率よく一貫した品質で評価することができ、近年需要が高まっています。ここでは培養細胞の顕微鏡像の画像解析を行うにあたり、画像の処理をより円滑に進めやすくするような像の撮影方法の留意点について説明します。

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目次

  1. 解析対象・目的を設定する
    1. 接着細胞(コロニー非形成)の場合
    2. 接着細胞(コロニー形成)の場合
    3. スフェロイドの場合
  2. 撮影手段を検討する
  3. 付録(機械学習による画像分類について)

1解析対象・目的を設定する

よく画像解析で見られる事例として、日常的に細胞の品質を確認するために撮り溜めていた過去の撮影データを用いて画像解析をしてみたいという場合があります。このようなデータは、そのまま画像解析ができる場合もありますが、改めて画像を確認すると明るさ、撮影位置、フォーカス、画像解像度などの条件などにばらつきがあり、画像解析アルゴリズムの作成が困難となるケースが多く見られます。アルゴリズムの作成が困難な時には、画像撮影をやり直したほうが、かえって画像解析をおこなうのに効率が良い場合すらあります。一方で、解析対象・目的によっては、撮影時の条件設定を緩和(画像解像度をこれまでより低くする、撮影位置を厳密に制御しないなど)しても問題とならない場合もあります。つまり、画像解析を行うためには、以下の2点が重要なポイントになります。

  • 自分が行いたい解析の対象(e.g. どのような細胞状態の?どの部分を?)や目的(e.g. 何を明らかにしたいか?)を明確にする。

    例:
    ① 視野中の細胞占有面積さえ分かればいいので、細胞がある部分とバックグラウンドだけ区別できれば良い。
    ② 細胞の数を数えたいので一つ一つの細胞を個別に認識したいが、形を捉える必要はない。
    ③ 細胞の形状まで解析したいため細胞の形を正確に認識したい。

  • 解析対象が画像中に明確に写っており目視でも正確に解析の対象が分かる像を取得する。

適切な撮影条件は、解析対象・目的によって異なります。ここでは、一般的な撮影条件設定について、下記の 3 つの解析対象例に分けてご説明いたします。

  1. 接着細胞(コロニー非形成)の場合
  2. 接着細胞(コロニー形成)の場合
  3. スフェロイドの場合

撮影条件設定のためのチェック表はこちらからダウンロードできます。

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1.1接着細胞(コロニー非形成)の場合

接着細胞(コロニー非形成)においてはさまざまな評価が行われておりますが、細胞種にかかわらず一般的に日常の培養状態を評価するために用いられる細胞数のカウントや細胞占有面積率などを評価指標とする場合と、特定の細胞種と目的にあわせた細胞形態を評価指標とする場合(例:神経細胞の神経突起の長さなど)があります(図 1)。

  • 細胞数カウントの場合、撮影条件によって細胞とバックグラウンドの間に大きな輝度の差が生まれず、解析が難しいことがあります。

    →なるべく細胞と背景のコントラストが高く、容器が汚れ(結露含む)が目立たず、それぞれの細胞によって見え方が大きく異ならないような細胞像を取得してください。そのためには位相差による撮影(3 章参照)やフォーカスをしっかり合わせることが重要になります。

  • 細胞形態を定量化したい場合、細胞同士が重なるとそれぞれを分けて解析することが困難になります。

    →細胞密度をできるだけ低くし細胞同士が重ならないようにすることによって解析時の細胞認識難度を下げることができます。特に神経突起長を解析したい場合には、突起長にしっかりとフォーカスが合っていることが重要です。例を図 1 に示します。

図1:間葉系幹細胞カウントと神経突起抽出の例

図1:間葉系幹細胞カウント神経突起抽出の例
(事例記事参照)

1.2接着細胞(コロニー形成)の場合

iPS細胞(人工多能性幹細胞/iPSC)や ES細胞(胚性幹細胞/ESC)といったコロニーを形成する接着系の幹細胞の状態を評価する解析においては、ある時系列中のコロニーの面積や、コロニー中の細胞の分化/未分化度合い等が解析対象として多く使われます(図 2)。

  • 播種後まもない時点で小さなコロニーの面積を測定したり、トラッキングしたい場合、細胞密度が薄く視野中に死細胞やゴミが浮遊していないことが重要となります。

    →細胞密度が薄いほうが細胞のトラッキングが容易で、死細胞やゴミがコロニーの一部として検出されてしまう可能性があるからです。

  • コロニーの分化/未分化を判定したい場合には、コロニーの表面のテクスチャ情報が重要となります。

    →コロニー表面にフォーカスが正確にあっていること、輝度値が飽和(サチュレーション)を起こしていないこと(3 章参照)を満たすことができれば、解析難度が下がります。下記にコロニー表面のテクスチャ情報を用いて、幹細胞コロニーを分化した領域と未分化状態を維持している領域に分類した事例を示します(図 2:事例)。

図2:ヒト多能性幹細胞コロニーの解析例(青:粗コロニー、赤:密コロニー)

図2:ヒト多能性幹細胞コロニーの解析例(緑:未分化領域、赤:分化領域)
(事例記事参照)

1.3スフェロイドの場合

スフェロイドの状態を評価する場合は、ある時系列中のスフェロイドの面積や真円度などが解析対象として多く使われます。

  • スフェロイドは高さがあるため観察が難しいサンプルで、いかに観察したい面においてフォーカスを合わせられるかが重要になります。

    【注意点】

    • タイムラプス撮影をする場合には、スフェロイドが動くことで撮影中に視野から外れてしまうことがないように工夫することや、事前にオートフォーカスの精度を確認することが重要です。
    • オートフォーカスが困難な場合には、複数のフォーカス条件で多めに撮影しておくことが有効です。
  • スフェロイドの形成過程を観察したい場合においては、成長して高さが変わるスフェロイドにフォーカス位置を合わせ続けることが課題となります。

    【注意点】

    • 培養期間:観察までの培養期間によって観察初期のスフェロイドの状態を予測する
    • 観察期間:観察期間内にスフェロイドに生じる変化を予測する
    • 培養容器:U 底ウェルを使用するなどをして位置の固定を検討する
    • 観察装置の条件検討:観察条件を柔軟に変更できる装置を使用する
    • オートフォーカスの工夫(オートフォーカスのアルゴリズム、オートフォーカス対象視野範囲、オートフォーカスの対象高さ範囲の設定):設定を工夫して最適なフォーカス結果を得られるように最適化する

画像解析に適した細胞の撮影方法のポイントをチェックシート形式でご提供!

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2撮影手段を検討する

1章で説明したように画像解析の対象を明確化したら、次は撮影手段の検討が必要です。撮影時に検討すべき主な条件を表 1 に記載しました。撮影方法によってサンプルの見え方は大きく変わります。一般的に、染色していない状態の細胞は透過性が高いため明視野観察では解析に十分なコントラストを得ることが難しく、微分干渉や位相差観察が好まれます。また、輝度値の勾配を解析したい時には、画像の輝度値が飽和(サチュレーション)を起こしているとその部分の明暗情報は失われてしまいます。かといって、暗すぎると十分な情報が得られません。観察対象によって撮影条件を 1 つずつ吟味し、必要に応じて追加し検討することができれば、画像解析の精度や容易さは大きく向上します。また、一度設定した条件は、同じ対象を解析したい場合変更すべきではありません。画像のロバスト性の高さは解析のロバスト性にも影響します。

表1:撮影時の検討すべき主な条件

スクロールできます

大分類 主な項目
撮影 撮影方法(明視野 / 位相差 / 微分干渉 / 蛍光)
サンプル 非染色 / 染色(非蛍光 / 蛍光) 容器の種類、メニスカス領域
撮影時のサンプル中のゴミの多さ、
死細胞の多さ、容器の汚れ
サンプルの厚さ
細胞播種濃度、
撮影タイミング(播種からの時間)
撮影条件 倍率 撮影時の露光時間
撮影視野の位置 照明の明るさ、使用する波長
視野の広さ、タイリング数 撮影間隔
フォーカス(手動・自動) Z-スタックの有無
装置 使用する装置 対物レンズの種類
撮影位置 x-y の再現性 撮影画像の解像度
保存 画像保存形式(非圧縮形式推奨)
図3:異なる明るさで撮影した時のヒト多能性幹細胞コロニーの見え方

図3:異なる明るさで撮影した時のヒト多能性幹細胞コロニーの見え方

3付録(機械学習による画像分類について)

2 章までは、画像解析の対象が目で見て明確である場合の画像解析についてご紹介してきました。しかし、“ルールベースの画像解析”に必要なルールを作成することが困難な場合も考えられます。例えば、複数種類の画像を分類するタスクにおいて、それぞれの画像の違いをルールとして規定することが難しい場合があります。

画像から細胞継代の時期を分類するタスクを例にとって説明します。図 4 では、二種類の継代時期の顕微鏡画像を紹介しています。これらの画像は全体的にみると人の目には違いを見分けられますが、細胞中の特定の構造に着目してもどちらが継代初期なのか判断することは困難です。このような場合、視野全体を解析対象としてテクスチャ情報を数値化し、AI の一種である機械学習(マシンラーニング)を用いることで画像を分類することができる可能性があります。

機械学習をおこなうには、予め分類結果が分かっている/分類結果を将来的に知ることができる細胞サンプルを用意します。その細胞サンプルに対して、画像撮影時に撮影条件を同一に設定しても、分類に用いられる特徴ができるだけ表れやすい撮影条件を見つけて撮影します。そして撮影したデータは学習用画像と評価用画像(両方ともどのように分類すべきかが分かっている画像)に分けておきます。その後、学習用画像を使って画像分類アルゴリズムを作り、評価用画像で分類精度を評価します。この例で示したような機械学習を利用する画像解析の場合、人手でルールを設定する必要がないため、タスクによっては効率よく解析が可能となります。なお、機械学習では、時に人の目で見分けるのが困難な対象をも見分けられることがあります。

図4:異なる継代回数の間葉系幹細胞の様子

図4:異なる継代回数の間葉系幹細胞の様子

画像解析に適した細胞の撮影条件を設定するためのチェックシート

画像解析に適した細胞の撮影方法のポイントがあることをご存じですか?下記の 3 つの解析対象別に、それぞれ一般的な撮影条件設定の留意点をチェックシート形式でご提供します。

  • 接着細胞(コロニー非形成)
  • 接着細胞(コロニー形成)
  • スフェロイド

※チェックシートをご利用の際は本記事を参考にしてください。

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