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細胞観察の意義と課題

公開:2020.03.11

近年、培養細胞は基礎研究だけでなく産業や医療への利用が進みつつあり、培養細胞の品質の安定性や、その結果の再現性が高く期待されるようになってきました。それにともない、良い細胞を育てるためにはどうするべきなのか、について議論されるようになってきています。

より良い細胞培養を目指すには

EUや米国では、近年の培養細胞を用いた創薬研究などにおける再現性、信頼性、的確性を担保するために、Good Cell Culture Practice(GCCP)1)やBest practices in cell culture2)が提言されています。これらの提言には、細胞培養セルカルチャー)を行うにあたっての基本的な知識や作業について記載されていますが、それだけでは十分ではありません。細胞を観察して判断する観察力や、細胞の特性を維持できるような培養技術とノウハウが必要です。

適切な培養作業と不適切な培養作業の図

細胞はその由来によって様々な形をしています。例えば、皮膚の幹細胞ステムセル)であるケラチノサイトは、多角形の細胞が敷石状に増殖していきます。しかし、その中に、紡錘形をした真皮由来の線維芽細胞がしばしば混入します。また、神経細胞は、細胞体から突起を長く伸ばした特徴的な形態をしています。このように培養容器に接着している細胞を観察することにより、その形態的特徴を確認し、細胞種をある程度同定することが可能です。

培養細胞を利用する際に重要なことは、健康な細胞を適切に用いることです。例えば、ケラチノサイトへの化粧品成分の影響を検討しようとするとき、たとえ細胞数が十分量であっても、多くの線維芽細胞が混入していたのでは、正確な結果を得ることはできません。また、細胞質が膨化し、老化した細胞への作用と、若いケラチノサイトへの作用とは結果が異なりますから、両者の結果を同様に取り扱うことはできません。一般的には継代数を同じにして確認実験を行いますが、ヒト皮膚由来ケラチノサイトの場合、ドナーやロットにより、その品質は異なることが多く、細胞の形態や増殖性から判断することも必要です。

では、細胞が増えていること以外で、細胞の品質はどのように評価すればいいのでしょうか?

例えば、ケラチノサイトと線維芽細胞の違いを確定するためには、細胞を固定して、抗ケラチン抗体を用いて免疫染色を行います。ケラチノサイトが陽性であれば、ケラチノサイトと判定できます。しかし、その解析した細胞を使って、次の実験を行うことはできません。そのため、位相差顕微鏡を用いた目視により、細胞を殺さずに、非侵襲的に観察を行い、細胞の状態を評価します。

では、どのような点に気を付けて、観察をすればいいのでしょうか?

日本組織培養学会の学会誌に、「培養細胞の観察の基本原則」の提案が掲載されています。この総説では、顕微鏡観察に先立つ細胞の目視、低倍率・高倍率での倒立位相差顕微鏡観察、観察のタイミング、適切な記録と保存などに関して基本的事項として7条項が提案されています。

関連リンク

「培養細胞の観察の基本原則」についてより詳しくお知りになりたい方はこちら(ウェビナー動画)。

「細胞培養における基本原則」「培養細胞の観察の基本原則」について動画で解説

さらに具体的には、細胞の形や辺縁、核、細胞質などについて、どのように観察すればいいのでしょうか?

例えば、ケラチノサイトは多角形をしています。血球系の細胞は球形で、辺縁は「つるっ」としています。神経細胞は、樹状突起を出していれば「ギザギザ」しています。また、若いMSC間葉系幹細胞)は、大きさがやや小さく、老化するにしたがって大きくなっていきます。

若いMSCと老化したMSCの画像

細胞核は、一般的には1つですが、分化した細胞や、老化した細胞では、多核となる場合があります。また、細胞質内に分泌物などを貯留すると、押しやられて核が扁平になり偏在します。

未分化なES細胞(胚性幹細胞/ESC)やiPS細胞(人工多能性幹細胞/iPSC)は、細胞質がほとんどありませんが、やや分化した状態では、核に対する細胞質の領域が大きくなります。また、HeLa細胞やMSCでも、培地交換を行わないと、細胞質内に空胞が多くなります。

iPS細胞の画像

多くの細胞種の培養経験がなければ、わからないことも多いかもしれません。しかし、データシートや細胞バンク、樹立論文などには細胞の画像が掲載されています。それらの情報は、実際にその細胞の培養経験の有無にかかわらず、有用ですので、必ず確認しておくべきです。その上で、昨日見た細胞の状態や、先週、よく増えていた細胞の状態と、比較評価します。今日も忙しい時間を過ごしていて、昨日の様子も、ましてや1週間前の細胞の様子は覚えていられないでしょう。忘れてしまってもいいように、顕微鏡画像を保存しておきましょう。昨日の画像、1週間前の画像を見て、今日の細胞の様子と比較して、今日の細胞が問題ない品質であることを確認したら、安心して次の作業に移りましょう。

    参考文献

    1) Cell Culture Techniques,Springer, 2011; 56: 1-25 (ISBN 978-1-61779-076-8)

    2) In Vitro Cell Dev Biol Anim.2017; 53: 669-72

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