シロイヌナズナ (Arabidopsis thaliana)
サンプル詳細:カルシウムバイオセンサーGCaMP(GFP)発現
観察手法:実体顕微鏡、蛍光
観察倍率:1X
撮影年:2019年
豊田 正嗣 准教授
細胞内に遊離しているカルシウムイオン(Ca2+)の濃度変化。筋肉の収縮や神経伝達などさまざまな生理学的役割を果たす。細胞内のCa2+濃度は、一般的に細胞外に比べて10000倍程度低く保たれており、Ca2+の濃度変化が次の生体反応を引き起こすスイッチ(シグナル)として働く。
緑色蛍光タンパク質(GFP)にカルシウムイオンやグルタミン酸を結合するドメイン(領域)を融合したタンパク質(Nakaiet al., Nature Biotechnology 2001; Marvin et al.,Nature
Methods2013)
GCaMPは細胞内のカルシウムイオンを結合すると明るく緑色に光り、iGluSnFRはグルタミン酸を結合すると明るく緑色に光る。
キャベツ等と同じアブラナ科の1年草。寿命が短く栽培および遺伝子組換えが容易であることから、世界中でモデル植物として研究されている。2000年に全ゲノムが解読された。
葉脈などの維管束を形成する組織の1つ。細胞が長く連なった管状構造になっており、光合成産物(養分)を輸送する役割を果たす。維管束を形成するその他の組織や細胞として、水を輸送する道管や伴細胞、柔細胞などが近傍に存在する。
隣り合う2つの植物細胞(細胞質)をつなぐ孔。mRNAやタンパク質などの小分子が移動すると考えられている。構造は異なるが、機能的に動物細胞のギャップ結合に似ている。
グルタミン酸を結合すると活性化する膜タンパク質。代謝型とイオンチャネル型に大別される。
私たちの脳内では、ある神経細胞のシナプス前末端から放出されたグルタミン酸が別の神経細胞のグルタミン酸受容体に結合することで、神経伝達を行っている。
この興奮性シナプス伝達が、記憶や学習において重要な役割を果たしていると考えられている。シロイヌナズナには、活性化するとイオンを透過させるイオンチャネル型グルタミン酸受容体に相同性の高いGlutamate Receptor Like (GLR)が20種類存在する。その内のGLR3.3
とGLR3.6が、傷害時に発生する長距離Ca2+シグナル伝達に必須であることが本研究で明らかになった。
うまみ成分の1つであると共に、哺乳類の中枢神経系では興奮性神経伝達物質として働くことが知られている。
Q:植物が獲得する抵抗性とはどんなものですか?
A:自由に動くことのできない植物は、害虫を物理(直接)的に攻撃できません。そのため、害虫が嫌がる物質、例えば食べると消化不良を起こすような化合物をあらかじめ作っておくことで抵抗しています。
Q:先生が発見された植物の防御の仕組みは、他の植物でも保存されているのですか?
A:その可能性は高いと思います。これまでタバコやイネなどの植物にCa2+のバイオセンサーを発現させてきましたが、調べたすべての植物で傷害時の長距離Ca2+シグナルが観察されています。
Q:傷のない葉にグルタミン酸を投与するとどうなりますか?
A:残念ながらCa2+シグナルは起こりません。植物の葉の表面はワックスなどの撥水性の高い物質で覆われているため、グルタミン酸溶液を投与しても、グルタミン酸受容体3.3および3.6を発現している維管束組織(葉脈)まで到達できないからです。グルタミン酸溶液の浸透性を高めるなどの工夫が必要です。
Q:この発見により今後どのような研究が期待されますか?
A:グルタミン酸が、傷つけられた場所のみならず遠くの葉でも傷害に対する抵抗性を上げていることが、今回の研究でわかりました。植物の抵抗性を制御できるような新しいアミノ酸(グルタミン酸)型の肥料や農薬の開発につながると期待しています。