由来種 :ブタ
器官・組織・細胞(株)名:脳から単離した微小管
染色・ラベル方法等 :Tau 由来ペプチド融合Azami-Greenを複合化した微小管
(赤色蛍光色素修飾)
撮影時間ごとに異なる色で画像を重ね合わせ
観察手法 :蛍光
対物レンズ :Lambda S 60x
作品画像取得年 :2021
稲葉 央
チューブリンタンパク質から構成される、一般的に内径約15nm、長さ数um~数十umのチューブ状集合体。細胞の形態維持や変化、細胞分裂、細胞内物質輸送、鞭毛や繊毛の運動などの多様な細胞機能に重要な役割を果たす。
本研究グループによって開発された、微小管内部に結合するペプチド(CGGGKKHVPGGGSVQIVYKPVDL)(Chem.Eur. J., 2018, 24, 14958)。微小管関連タンパク質の一種であるTau14から設計され、微小管内部に相当するチューブリンのポケットに結合する。
アザミサンゴより単離された、四量体構造を形成することで緑色蛍光を生じるタンパク質(A. Miyawaki et al., J. Biol.Chem., 2003, 278, 34167)。TP-AG はAG のC 末端にTPを導入したものであり、AG1つあたり4つのTPを有する。
真核生物の細胞から突出している微細な毛のような構造。波打ち運動をすることで、精子の運動などを可能とする。内部の中央に中心対微小管があり、周辺微小管(ダブレットなどの多重微小管)がそれらを取り囲むように並んでいる。
動物細胞における細胞小器官の1 つ。細胞内では微小管形成中心から微小管が伸長してアスター型構造を形成し、紡錘体形成などに関与する。
アミノ酸で一種であるヒスチジン(His)が連続した配列。タンパク質精製に汎用される。His-tagは微小管外部表面に結合することが示唆されており、今回はHisが6個連続した配列を用いた。
抗がん剤の一種であり、TPの結合部位と同じ微小管内部のポケットに強く結合する。タキソールの結合により微小管は極めて安定化され、脱重合が抑制されることで細胞が正常に分裂できず抗がん活性を示す。
試料そのものではなく、その背景を染色して電子顕微鏡で観察する手法。染色剤としてタンパク質よりも強く電子線を散乱させる重金属溶液(今回は酢酸ウラニル溶液)が用いられる。
溶液中の試料を急速凍結し、電子顕微鏡によって観察することで、生体内に近い状態での構造を観察することができる手法。ネガティブ染色電子顕微鏡と異なり染色を行う必要がない。
カバーガラス上で励起光を全反射させることで生じるエバネッセント光を光源とした蛍光顕微鏡。背景に光ノイズの少ない状態での観察が可能であり、今回は微小管の分岐構造の形成をリアルタイムで追跡するために用いた。
ATPの加水分解により生じる化学エネルギーを運動に変換するタンパク質の総称。細胞内の物質輸送や細胞分裂などに重要な役割を果たしている。微小管上を動くモータータンパク質としてキネシンやダイニンなどが知られている。今回はキネシンを固定した基板上における微小管の運動を解析した。
アデノシン三リン酸。地球上の生命のエネルギー通貨として知られ、その化学エネルギーは力学的な仕事や情報に変換される。モータータンパク質の運動以外に、物質を濃度勾配に逆らって輸送する農道輸送や生体物質の合成などの多様な用途に使用される。
繊毛や鞭毛に関係するタンパク質の異常によって引き起こされる病気の総称。内臓逆位や不妊症、腎臓病なども繊毛病の一種として知られる。繊毛や鞭毛の成分であるダブレット微小管など、微小管超構造体の異常が繊毛病を引き起こしている可能性がある。
微小管に結合してその構造や機能を調節する微小管関連タンパク質の一つ。神経細胞に豊富に存在し、微小管に結合してその構造を安定化することが知られている。
Q1微小管、というチューブ内部にペプチド結合タンパク質を詰め込む、という画期的なアイデアはどこから生まれたのですか?
また結合することで微小管の機能阻害は生じないのでしょうか?
これまで微小管の外側に人工分子を導入した例は多くありましたが、内部に入れた例はないのでやってみたら面白いんじゃないか、新しい現象が見られるのではないか、と松浦教授と相談して始めました。
例えば微小管の外側に分子を導入するとキネシンによる運動速度が低下してしまいますが、内部に導入するとむしろ速度が増大することがわかっています。
このように、内部を使うことで微小管の機能を損なわずにその性質を制御できると考えています。
Q2今回4量体のAzami-Greenを用いていますが、他の蛍光タンパク質や単量体蛍光タンパク質を用いた場合はどのような結果が得らえるのでしょうか?
Azami-Green に変異導入を入れると単量体にすることができますが、その場合微小管への結合が弱くなり、安定化効果や微小管超構造体を作る能力はAzami-Green に劣ることがわかっています。
このことはタンパク質の種類に応じて微小管の性質が変化することを示しており、現在様々なタンパク質を用いて微小管への影響を調べています。
詳細はまたご報告できればと思います。
Q3TP-AGを生体内で発現して、本来の微小管をコントロールすることは可能ですか?
また自然に存在する微小管の多様性は、微小管内部になんらか結合し剛直性を高めていることによる、といった報告はあるのでしょうか?
TP-AGを用いた生体内の微小管のコントロールはとても興味があり、現在トライしているところです。繊毛や鞭毛中のダブレット微小管は、タンパク質が内部から裏打ちすることで丈夫で安定な構造となっています。
また、神経細胞や寄生虫などのある種特殊な細胞の微小管内部にもタンパク質が結合していることがわかっており、内部への結合を利用してその場に応じた微小管が作られていると考えることができます。
このような生体内の現象を我々の系で再現することが次の目標です。