Well-Being歴史の遺産を未来へ

百年、千年、数千年の時を経て、現代に遺されている文化財や美術品。それらは熟練した技術者たちによる修理・修復が、50年から100年ごとに繰り返されることによって受け継がれてきました。九州国立博物館では、日本とアジアの交流をテーマに蒐集された、さまざまな収蔵品を維持・管理するために、ニコンの顕微鏡を役立てています。

博物館には、展示だけではない多様な役割がある。

「博物館」を辞書で引くと、『考古学資料・美術品・歴史的遺物その他の学術的資料をひろく蒐集・保管し、これを組織的に陳列して公衆に展覧する施設。また、その蒐集品などの調査・研究を行う機関。※』とあります。博物館における“展示”は、一般の人々との接点であり教育的な役割も果たしていますが、その側面だけが意識されがちです。実はその背景に、さまざまな役割があるのです。特に、保管・調査・研究は、博物館の根幹を支えるものであり、蒐集品を過去から現在、そして未来へと遺していくために欠かすことのできない役割と言えます。
博物館は、紀元前から存在していたと言われています。現在、世界的に有名なものは、「大英博物館」、「エジプト考古学博物館」、「スミソニアン博物館(ワシントンD.C.)」、「故宮博物院(北京/台北)」などがあり、それぞれの国や地域の歴史や文化にもとづいた、特徴ある蒐集・展示などを行っています。
日本の博物館の代表格としては、4つの国立博物館が挙げられます。やはりそれぞれに特徴があり、「東京国立博物館」は、日本で最も長い歴史のある博物館として“日本を中心とした東洋の文化財”をテーマにしています。また、「京都国立博物館」は“京都の文化”を、「奈良国立博物館」は“仏教美術”をテーマに。そして、今回の取材先である「九州国立博物館」は“日本とアジアの交流”をテーマとしています。
「中国大陸、朝鮮半島を含むアジア諸国の文化財を、日本との交流という視点で蒐集し、これらを保存・修復・展示していくことが当博物館の使命です」と、学芸部 博物館科学課 保存修復室の志賀室長はおっしゃっていました。

  • 広辞苑第七版より
九州国立博物館 学芸部 博物館科学課
保存修復室長 志賀 智史さん

大陸との文化交流の象徴である太宰府に開館した、九州国立博物館。

九州国立博物館は2005(平成17) 年、福岡県太宰府市に最も新しい国立博物館として開館しました。太宰府は、7世紀ごろ「遠の朝廷(とおのみかど)」と呼ばれ、当時の大和朝廷が遠く離れた九州地方を統治するための要衝であると同時に、日本海を隔てた大陸との交流の地でもありました。この地理的な特徴を背景とする九州国立博物館は『中国、朝鮮を始めとするアジアとの文化交流』を展示のコンセプトとしています。山間に佇むその外観は、海と波を連想させる緩やかな曲線の青い屋根とガラスの壁面で構成されており、非常に近代的で、巨大な建築物でありながらも、周囲の緑の中へ自然に溶け込んでいます。

建物内は5層構造となっており、1階がエントランスホール、4階が平常展示を行う「文化交流展示室」、3階が企画展示用の「特別展示室」です。

建物は免震層を含む5層構造
保存・管理のための徹底的な配慮が施された収蔵庫

そして2階にはフロアのほとんどを占める大規模な「収蔵庫」があります。外部からの影響を最小限にするため、収蔵庫全体を二重構造にし、恒温・恒湿仕様の空調を用い、さらに内装材には杉板などの木材を使用して穏やかな湿度調整を行っています。そして、収蔵庫の下になる中2階には、この建築物の大きな特徴である免震層があります。つまり、収蔵庫と展示室のすべてが、この免震層の上に建てられているのです。

文化交流展示室
文化交流展示室の展示物

多様な収蔵品の修理・修復に顕微鏡が貢献。

学芸部 博物館科学課 保存修復室は、博物館の2階、収蔵庫のあるフロアにあります。その他の部署や研究室、検査・分析室、作業場、事務関連の部署などもほとんどが2階にあり、巨大な収蔵庫を取り囲むように配置されています。まさに博物館を支えるバックヤードと言えます。
保存修復室の役割は、博物館の蒐集品、収蔵品を保存していくための修理・修復。「蒐集品、収蔵品は50年から100年ごとに修理・修復が繰り返され、現代に伝わっていますので、そのサイクルを止めないようにすることが必要です」と志賀室長はおっしゃいました。さらに、蒐集品、収蔵品などの科学調査も担当しており、現代には遺されていない材質や技法を科学的に調べることも行っています。保存修復室では、修理・修復や科学調査のために、多種多様な分析・調査機器を使用しますが、そこで、ニコンの実体顕微鏡も活躍しています。

ニコンの実体顕微鏡を使用する
古墳の土に使用された顔料を特定
古墳の中の土(白丸が朱:赤色硫化水銀、青丸がベンガラ:酸化鉄)
仏像表面に残る漆塗膜(元は漆の上に金箔が貼られていた)
絵画の裏彩色(絹布に描かれた絵には、絹布の裏側からも彩色が行われていることがある)

これまでに修理・修復が繰り返されてきたものは、その度に彩色や切り取りなど、さまざまな手が加えられています。また、発掘されたものの多くは、製作技術が不明な場合があります。対象物の本来の姿や制作手法などを解明するため、細かな痕跡を詳細に観察する必要があり、そのために実体顕微鏡は必須の機材となっています。対象となるものは、実にさまざま。石器、土器、鉄器、陶器や漆器、仏像、書画など実に多彩です。それらの材質や構造、使用されている顔料、釉薬などを明らかにしていくことで、さらに修理・修復技術の開発・向上や、技術者の方のスキルアップが望めます。
「当館は2020年に15年目となる若い博物館です。今後、歴史的に重要な蒐集品、収蔵品を増やすことが大切だと考えています。また、日本の伝統的な修理・修復技術や材料をもっと世界に広め、各国の文化財が少しでも長く保存できるようになればと願っています」最後に志賀室長はそうおっしゃっていました。

博物館は、過去から現在にのこされた宝物を未来へと引き継ぐ『タイムカプセル』のような役割も果たしています。歴史の遺産を守り続けていく。そこに、ニコンの顕微鏡が役立っています。