Well-Being肌の真理を探究する

私たちの肌。人を形づくる大切な要素のひとつであり、実にさまざまな役割を果たしています。しかし、薄さ約2mmという肌の組織とその機能には、まだ解明されていない秘密が多くあるのです。資生堂の最新研究施設である資生堂グローバルイノベーションセンターでは、肌(皮膚)の真理を解き明かす研究に、ニコンの顕微鏡を役立てています。

美を超えて、人々の幸福に貢献する。

『肌』を美しく彩る『化粧』。その起元は、4~5万年前とも、20万年前とも言われており、儀式などのために施されていたようです。紀元前3000年ごろの古代エジプトでは鉱物や植物、昆虫などを使った化粧品がつくられていました。中世、近代にも化粧の習慣はありましたが、現在では老若男女、さまざまな人たちが日常生活の中で化粧に親しんでいます。
今回の取材先は、企業ミッションを『BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(ビューティーイノベーションでよりよい世界を)』とする資生堂。多様化する美の価値観、ニーズをとらえ、美でこの世界をよりよくするためにイノベーションをおこし続けていくことを使命とし、それは、より多くの人々の健康と幸福への貢献を目指す、Well-Beingのコンセプトにもつながっています。

  • みなとみらい線「新高島」駅 1・2番出口すぐ
  • JR/市営地下鉄「横浜」駅 東口から徒歩10分

資生堂グローバルイノベーションセンター
(S/PARK:エスパーク)
2019年4月、横浜・みなとみらいに開設された
最先端の研究施設。
1・2階は、美の複合体験施設として一般開放。

訪問先は、最先端の研究施設である、資生堂グローバルイノベーションセンター(S/PARK:エスパーク※)。 2019年、都市型オープンラボとして、横浜みなとみらいに開設されました。

資生堂グローバルイノベーションセンター
1・2階は、美の複合体験施設として一般開放
1階の広いロビー
壁面には、横幅19.3mの巨大なLEDディスプレイ
S/PARK Beauty Bar カウンター(1階)
S/PARK Museum(2階)

研究施設のミッションは、化粧・美容を革新し、美しさを超えて、体や心の健康、さらには人々の幸福に貢献すること。“化粧”はいま、新たな歴史の局面を迎えているのかもしれません。

  • S/PARK:エスパークには、多くの人が集まる資生堂のパーク(公園)という意味と、イノベーションが次々とうまれる「スパークする研究所」というふたつの意味がこめられている。

皮膚のメカニズムと化粧品の効用を探求する。

研究についてお話を伺ったのは、アドバンストリサーチセンターの傳田 澄美子(でんだ すみこ)さんと、海野 佑樹(うみの ゆうき)さん。お二人は、化粧品が肌に与える効果や影響のメカニズムを肌の深部にわたるまで解明することを研究テーマとしています。
傳田さんは、皮膚の角層直下まで広がっている神経の働きを研究しています。皮膚は2mmほどの厚さですが、そこには皮膚への刺激やストレスを感じ取るための多くの器官が含まれており、表皮ケラチノサイト、免疫細胞から分泌される物質の影響と合わせて、さまざまな神経反応が現れます。そのメカニズムを解明することで、敏感肌の人も使用できるような化粧品開発のための基礎研究に取り組んでいます。
そして海野さんは、化粧品の原料の効果、特に皮膚の角層のバリア機能を高める原料の探索とそのメカニズムに関する研究を行っています。皮膚の最も外側にある角層には、水分を含んだ角層細胞があり、その隙間を脂質が埋めています。これが体内の水分が蒸散することを防ぎ、細菌やアレルギー物質などの侵入を防ぎます。海野さんは、表皮の細胞を立体的に培養し、バリア機能を持つ角層の観察を行っています。

資生堂グローバルイノベーションセンター
アドバンストリサーチセンター
傳田 澄美子さん(左) 海野 佑樹さん(右)
皮膚の構造
肌荒れ(バリア機能の低下)を伴う敏感肌のメカニズム
角層生成のサイクル
角層のバリア機能とその回復

傳田さんと海野さんは、ひとりでも多くの人が安心して使える化粧品のため、肌の組織を対象とした、基礎から応用までの一連の研究に連携して取り組んでいます。それもまた『BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD』への挑戦なのです。

より深く皮膚を観察するための多光子顕微鏡。

傳田さんの研究では、人の皮膚そのものが観察対象となります。平面方向、断面方向で皮膚の神経とさまざまな細胞を観察します。一方、海野さんの研究では人の皮膚の細胞を培養して疑似的に組織化したものを対象に角層から表皮までを観察します。どちらも肌の表面から0.2mmぐらいまでが対象で、通常の顕微鏡では観察することができません。しかし、皮膚の神経反応のメカニズムも、皮膚の角層や表皮に化粧品の原料の効果がどう及んでいるかを知るにも、皮膚の深部をより正確に観察する必要があるのです。
そこで活躍するのが多光子顕微鏡。近赤外線を利用して肌の深部を克明に捉えることができます。しかも組織が生きた状態での観察が可能で、かつ3次元の画像データを取得することができるため、肌への刺激に対する反応や、化粧品の原料が浸透する過程、その原料が浸透後どのくらい保たれるのかなどをリアルタイムで知ることができるのです。

多光子顕微鏡の設置された顕微鏡室
ニコン 多光子共焦点レーザー顕微鏡システムA1R MP+
検体をセットし観察を開始
3次元の画像をモニターに表示し詳細に観察

多光子顕微鏡による肌深部の顕微画像
(緑が神経線維)
画像提供:CREST・資生堂アドバンストリサーチセンター

多光子顕微鏡による培養皮膚深部の顕微画像
(無色の肌荒れ物質を塗った後に、緑色の水溶性物質を塗り浸透度合いを確認)
・左:角層から基底層  ・右:顆粒層から基底層(物質が本来届かない顆粒層にまで達している) ・上:角層から基底層 ・下:顆粒層から基底層(物質が本来届かない顆粒層にまで達している)
画像提供:CREST・資生堂アドバンストリサーチセンター

多光子顕微鏡の導入は、北海道大学の長山雅晴教授をリーダーとした、生理学と数理科学の両面から皮膚機能を解明する研究の構想が、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の戦略的創造研究推進事業(CREST)に採択されたことで実現したそうです。ニコンの多光子顕微鏡は、研究のためにカスタマイズしやすいこと、撮影方法などのさまざまな技術的サポートが得られたことが採用の決め手であったとのことでした。

最後にお二人に『夢の化粧品』について伺いました。「敏感肌やアトピー性皮膚炎のため、いままで化粧品を積極的に使えなかった人たちが、ためらうことなく自由なメイクアップを愉しめるような製品ができればと思います。そこに私の研究が役立てばこんなに嬉しいことはありません」と傳田さんは語ってくださいました。そして海野さんは、「その人のためにオーダーメイドされた製品が、食事から栄養を摂取するように、肌の健康やその人の体質の改善、さらには心の健康にも効果を発揮することができれば、化粧品にまた新たな価値が生まれますね」と答えてくださいました。

人や社会を豊かにするためのビューティーイノベーション。それは肌(皮膚)をより深く知ることから始まります。ニコンの顕微鏡は化粧品を含めた幅広いスキンケア製品を通じて、人々のWell-Being(健康で幸福)な生き方を応援する研究に貢献しています。

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