Well-Beingアスベストを見極める

アスベスト(石綿)という言葉を耳にしたことがあると思います。しかしアスベストの実体やこの物質が及ぼす健康障害の詳細についてはあまり知られていないのではないでしょうか。さらに、人々の健康や安心に貢献するための、アスベストの調査・分析への取り組みがあることも。日本環境分析センター株式会社では、建築材料や大気の中にアスベストが含まれているかを見極めるためにニコンの顕微鏡を役立てています。

アスベスト調査・分析のエキスパート。

アスベスト(石綿)は天然の鉱物繊維です。低コストで産出でき、非常に軽く加工が容易で耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性、遮音性、絶縁性などに優れているため“奇跡の材料”と呼ばれていたそうです。化学プラントの配管や工場の機械設備、自動車部品、建築材料などとして1940年代頃から需要が増え始め、1970年代をピークに世界中で大量に使用されてきました。「日本でも高度経済成長を背景にこの優れた材料を積極的に使う機運があったと思います」と語るのは、今回の取材に伺った日本環境分析センター株式会社の代表取締役、中元 章博さん。「しかし、WHOなどが1972(昭和47)年にアスベストの発ガン性を公表してから、各国で規制が始まりました。日本でも1975(昭和50)年から禁止措置が取られ、2006(平成18)年には、わずかな例外を除いて、重量の0.1%を超えてアスベストを含有する製品の製造・使用が禁止となりました」とお話しくださいました。

日本環境分析センター株式会社
代表取締役 中元 章博さん

日本環境分析センターは、アスベストの分析・調査、作業環境測定、水質・土壌分析、マイクロプラスチックの測定などを行う環境計量証明事業所※1です。本社は大阪府摂津市にあり、主な分析業務はここで行っています。本社建屋内の試料前処理室や分析室は常に陰圧に保たれ、室内の空気が外にもれ出ることを防いでいます。排気時にはHEPA※2フィルターを採用したシステムなどで浄化されます。「周辺地域の環境に対しても細心の注意をはらっています」と中元さんはおっしゃっていました。

日本環境分析センター 大阪本社
  • ※1水・大気・土壌中などの物質の濃度、音圧レベル、振動加速度レベルなどの計量証明を行う事業所。
  • ※2High Efficiency Particulate Air Filter。高度な清浄度が要求されるクリーンルーム用空調機器などに用いられる。

深く、長く体内に潜むアスベスト。

現在、アスベスト使用のピークから約50年が経過しています。当時建築され老朽化したビルや家屋の解体がいたるところで行われていますが、そこに使用されている建材にアスベストが含まれている懸念があります。もし解体時の粉じんなどを吸いこんでしまうと深刻な健康障害を引き起こす恐れがあります。そのため建設業者などには着工前の調査・分析が義務付けられており、日本環境分析センターへの依頼も増加しています。

では、アスベストはどのような健康障害をもたらすのでしょうか。アスベストの繊維は非常に細く、直径が約0.1μm~0.01μm。これは髪の毛の太さの1,000分の1以下。その細さゆえアスベストは肺の奥まで到達し、蓄積され、体外への排出も分解もされないまま、免疫系やDNAに影響を及ぼし、石綿肺、肺ガン、ガンの一種である悪性中皮腫などの重篤な疾病を引き起こす原因となるのです。さらに問題なのは症状が現れるまでの潜伏期間。それは、10年~50年という非常に長いもので、静かに体を蝕み続け、気付いたときには手遅れになってしまうことが多いのです。

アスベスト(石綿)の一種クリソタイル
アスベストによる健康障害の例

アスベストの分析に求められる、
高い技能と優れた顕微鏡。

建築物を対象とするアスベストの分析について、分析技術者の松井 円さんにご説明をいただきました。松井さんは公益社団法人日本作業環境測定協会※1が実施する、石綿分析技術の評価事業により認定される、Aランクの認定分析技術者です。
調査・分析は、厚生労働省が定めるアスベスト分析マニュアルにもとづいて行われます。まず、建築物から規定に沿った手順で採取された建材などの試料の形状や共存物質によって前処理を行います。前処理には試料を乳鉢ですり潰したり、熱を加えたり、酸の溶液に浸したり、蒸留水中で沈殿・浮遊させたりといった手順があります。

分析技術者 松井 円さん
対象となる試料をすり潰す
すり潰した試料を酸の溶液に入れる
その溶液をフィルターで濾す
フィルターから成分を抽出し顕微鏡分析へ

そのような手順で試料を前処理をした後、X線回折装置と位相差顕微鏡を用いた分散染色法での観察を行います。X線回析装置ではアスベストに固有の回折角※2を調べ、位相差顕微鏡ではアスベストの形態と固有の屈折率を判断します。さらに、偏光顕微鏡によって対象の結晶性を確かめ、これらによって観察対象がアスベストであるかを見極めるのです。しかも対象となるアスベストの種類は6種あり、それぞれに特性が異なるため、これらの分析・同定には、高い技能と豊富な知識・経験が必要とされるのです。

プレパラートに前処理済みの試料をのせる
顕微鏡(ECLIPSE LV100ND)のステージにセット
ECLIPSE LV100NDで分析を開始
顕微鏡画像をモニターに投影
分散顕微鏡法によるアスベスト(クリソタイル)の画像 400倍
偏光顕微鏡法によるアスベスト(クリソタイル)の画像 400倍

そして、松井さんのような高い技能を持つ分析技術者を現場でサポートするのが、ニコンのECLIPSE LV100NDです。この一台で位相差顕微鏡、偏光顕微鏡の両方として使用でき、分析作業の効率を向上させることができます。「同一視野で位相差と偏光の切り換えが簡単にでき、一日に多くの試料を見なければならない私たちにとって、非常にありがたい顕微鏡です」と松井さん。さらに「操作関係にも細やかな配慮が施されており、作業がよりスムーズになります。作業の効率が上がることで、ひとつひとつの試料の分析の精度も向上することを実感しています」と嬉しい感想をいただきました。

もともと化学が大好きだった松井さん。学んだ知識を地球環境のために活かせないかと考えこの道に進んだそうです。「今後アスベスト以外にも環境や人々の健康・安全を脅かす物質に対する新たな分析技術が求められるかも知れません。その要求にも応えていけるよう努力したいと思います」と語る松井さんの熱い想いに、これからもニコンの顕微鏡が貢献できたらと願います。

ニコン ECLIPSE LV100ND + DS-Ri2
  • ※1作業環境測定士、作業環境測定機関及び事業場等を会員とする公益社団法人。
  • ※2光が物質を回り込んで進む回折波と入射波とが生み出す角度。