Well-Being「失明のない世界」を目指して

1990年、英国スコットランド出身のダグラス・アンダーソンの幼い息子を襲った突然の失明。それを契機に彼は、自身で会社を設立。息子の眼疾患を早期発見できなかった当時の眼底撮影装置の性能を凌駕する、新たな技術を開発しました。息子の失明から9年を経た1999年、彼は医療への功績を認められ大英帝国勲章を受章し、エリザベス女王陛下との謁見を果たします。その後もこの技術は磨かれ続け、世界中の人々を失明から救うことに貢献しています。

息子の失明から始まった、新たな挑戦。

ダグラスの息子レイフが不運にも突発性の網膜剥離※1で片目の視力を失ったのは1990年、わずか5歳のとき。原因は疾患の早期発見ができず治療が遅れたことでした。レイフが検査を受けた当時の眼底撮影装置は、瞳孔から眼球内に照明光を入れて撮影するものでした。狭い瞳孔を通して1回に撮影できる範囲は限られており、広範囲な網膜の像を得るためには、複数回の撮影を行い、その画像を合成することが必要でした。

ダグラス・アンダーソン
5歳当時のレイフ

また、検査の際には瞳孔をより大きく開くための散瞳剤を用いなければなりません。瞳孔が開くため、患者は照明光をさらにまぶしく不快に感じます。しかも散瞳剤の効果がなくなるまで、検査後30分~1時間程度は通常の生活に戻れないのです。幼いレイフはそれらをとても嫌がり、眼底の撮影は上手くいきませんでした。
『もっと高性能な眼底撮影装置さえあれば息子の目の異変を早期に発見でき、失明を防ぐことができたはずだ』と確信したダグラスは、高性能な眼底撮影装置をゼロから生み出すことに取り組み始めます。そして1992年、自身でOptos社を設立し、さらに本格的な研究・開発を推進しました。

では、眼底撮影装置とは一体どのようなものなのでしょうか。眼底とは眼球内の底(奥)にある組織全体の名称です。そこにある網膜には眼の機能を支える血管が張り巡らされています。それらが瞳孔から水晶体越しに観察できることを利用して、網膜を画像として捉える機器が眼底撮影装置です。この装置によって糖尿病網膜症による網膜出血や糖尿病の合併症である糖尿病黄斑浮腫※2などを判定できたりします。体の中で血管を直接観察できる唯一の器官だからこそ、装置の性能や機能が高ければ、わずかな変化も見落とすことなく疾患を早期発見できる可能性が高まるのです。

  • ※1網膜剥離は、眼底から網膜が剥がれる眼疾患。視力が低下し、最悪の場合失明に至る危険性がある。
  • ※2糖尿病黄斑浮腫は、糖尿病により網膜中心部の黄斑にむくみが起こる眼疾患。進行すると大きく視力を損なう。

高性能で、人にやさしい眼底撮影装置。

医療機器のデザイナーであったダグラスは、『息子の不幸を繰り返してはならない』という信念の下に、それまで基本的な知識すらなかった眼底撮影装置の原理や構造を徹底的に学びました。そして、ほとんどの機器が1度に狭い範囲しか撮影できなかった当時の眼底撮影装置を根本的に見直し、5歳の子供が対象であっても1度で瞬時に、広範囲な眼底撮影が行える技術の開発を目指したのです。やがて、彼の思いに共感する支援者も現れ、Optos社を創業。本格的な取り組みが始まりました。

広視野画像取得のアイデアスケッチ
製品デザインのスケッチ

そして、超広角(Ultra-Widefield)技術の開発に成功。その核心は、凹状楕円鏡と網膜をスキャンする安全なレーザー光を組み合わせた、独自の光学系にあります。眼に安全な低出力のレーザー光を楕円鏡に反射させ、瞳孔を通して網膜をスキャン。この際に、特殊な鏡で入射角度を変えながらレーザー光を照射することで、きわめて広い範囲の高精細な網膜画像を瞬時に得ることができるのです。さらに、散瞳剤を用いないため患者の負担軽減も叶えました。

そして1994年、ついに最初の試作品を開発。この装置はPanoramic200 (P200)と呼ばれ、1度の撮影で網膜を200度の画角で捉えることができました。これは網膜の約82%にあたり、当時一般的であった15%に比べると大きな飛躍です。1998年には超広角(Ultra-Widefield)技術の特許取得と製品化も果たし、この技術と製品は世界で大きく注目されることになりました。その翌年、医療への功績が認められたダグラスは大英帝国勲章を受章し、エリザベス女王陛下との謁見を果たします。さらに2013年には、権威あるロイヤル・アカデミー・オブ・エンジニアリング(RAE)のフェローにも選ばれました。

使用される2種類のレーザー光とその到達域
超広角眼底撮影装置の撮影範囲とoptomap®

患者の失明リスク軽減に貢献し続ける。

Optosの眼底撮影装置は、Optomap®と呼ばれる網膜の高解像度画像を0.5秒未満で生成。現在、Optos社の製品は世界中で使用されており、超広角眼底画像、スピード、利便性・快適性などを医師と患者の両方に提供しています。

2015年、Optos社はニコングループの一員となりました。そして、ニコンの光学技術を融合させた網膜画像の撮影・解析技術を通じて、人々のクオリティ・オブ・ライフの向上と、「失明のない世界」の実現に貢献することを目指しています。また、網膜から得られる人体の豊富な情報から、いずれは高血圧症や糖尿病などの生活習慣病、アルツハイマー病、血液疾患など、さまざまな全身疾患の早期発見への可能性を秘めています。

Optos社の超広角眼底撮影装置

現代医療は遠隔診療やAIを活用した診断など、新たなフェーズへと向かっています。そこで必要とされるものが、より詳細で正確な患者の生体情報。網膜画像もそのひとつです。ニコンOptos社の眼底撮影装置が、医療の発展に役立つことができればと願います。

Optomap®についての詳細は下記を参照ください。
www.optomap.com[別窓で遷移します]