Well-Beingカニから学ぶ⾃然科学

今回は、カニの研究に取り組む三⼈の少年が主役。⼩さな頃から⾃然に興味を持ち、中学からチームでカニの研究を始めて、数々の科学賞を獲得し、現在はさらに深いテーマに挑んでいます。その活動拠点となる、広島にある科学実験教室の『ラボオルカ』、彼らの研究をManai Grant(マナイ グラント)という助成⾦制度などの形でサポートする、中⾼⽣のための科学研究機関『MANAI』、そして⽇々の研究に役⽴てられているニコンの顕微鏡をご紹介します。

カニへの深く鋭い考察と地道な研究。

たとえ著名なノーベル賞学者であっても、地道な経験を積み重ねていたころがあったのではないでしょうか。いま世界中で将来が楽しみな若い科学者たちが、それぞれの研究に取り組んでいます。今回お話を伺ったのは、広島市の科学実験教室『ラボオルカ』でカニの研究を⾏っている⽯川 直太郎くん、⽥上 福⼈くん、加納 怜くんの三⼈。⼩さな頃から⼲潟観察会などに参加し、やがてカニに興味を持ち中学⽣からチームとして本格的な研究を始めました。そのテーマは、⼲潟や陸地などに棲息するカニたちが⽔中からどのような過程を経て適応してきたのかというもの。そのために様々な種類のカニの分布と呼吸器官であるエラの枚数との相関関係、乾燥に対する耐性などを数年間かけて研究し続けてきました。

写真左から、加納 怜くん、⽯川 直太郎くん、⽥上 福⼈くん

それは三⼈で議論を重ねて仮説を設定することから始まります。その仮説を実証するためにカニの採取から解剖・エラの分類と記録、あるいは乾燥への耐性観察などの結果を積み重ねていく。まさに科学の王道とも⾔える、深く鋭い考察と地道な⽇々の研究の積み重ねによるものでした。その成果として広島県科学賞や⽇本学⽣科学賞などで数々の賞を獲得しています。

JR と広島電鉄の⻄広島駅近くに位置するラボオルカ
主なフィールドワークを⾏っている太⽥川放⽔路の⼲潟
ラボオルカのすぐ近くにある
⼲潟で採取したアシハラガニ
スナガニのエラを撮影・分類した図(論⽂に掲載)
カニのエラ数をまとめた表

未来の研究者たちの情熱を⽀える

ラボオルカでは、⽯川くんたちの他にもたくさんの⽣徒が⽣物学、物理学、化学などの研究と真剣に向き合っています。そして、このラボを訪れる⼀⼈ひとりに気付きを与え、⾃ら学ぶ意欲を引き出し続けているのが塾⻑のくや みつおさん。くやさんは、あるサイトで中⾼⽣の科学・技術に対する研究を助成⾦の形でサポートする制度があることを知ります。それが、Manai Grant(マナイ グラント)でした。この制度は、MANAI の⼀部であるManai 財団が運営。MANAI は、世界中の中⾼⽣たちが科学研究を⾏うコミュニティのベースとなり、また科学研究所や塾、学校としての役割を果たすことを⽬的としています。くやさんは⽯川くんたちに、この制度に応募することを薦めました。

MANAI の東京市ヶ⾕ベースで⾏われたワークショップ

そして、世界各国の中⾼⽣から数多くの応募があった中から、カニ研究チームが対象に選ばれました。その理由をMANAI の野村 ⻯⼀代表に伺ったところ、「最も⼼に響いたのは、⾜を使って⾯倒もいとわずに、熱中して取り組んでいる姿勢が伝わったことです。若い研究者ならではのこれから楽しみなところが⾒えました」とおっしゃっていました。『⼈は没頭からしか学ばない』―― 野村さん⾃⾝が⾼校時代に研究に打ち込むことで気付いた実感であり、MANAIの活動を⽀える理念でもあるこの⾔葉。“やらなければならないから”ではなく“⾃分がこれをやりたいから”という、学ぶことへの情熱を中⾼⽣に持って欲しいという思いと、カニ研究チームの真っ直ぐな姿勢がぴったりと重なったことが選ばれた理由だったようです。

三⼈に送られた、Manai Grant の認定書
MANAI の野村 ⻯⼀代表

⾒やすさと使いやすさで研究を⽀える
ニコンの双眼実体顕微鏡。

Manai Grantの助成を受けることで、石川くんたちには今後の研究に必要な双眼実体顕微鏡※1(Nikon SMZ745)が贈られることとなりました。この新しい顕微鏡を使うことで、研究のためのカニの観察や解剖がよりスムーズになったようです。
今回、チーム三人のラボでの様子を見せていただきました。まず、採取後に冷凍庫で眠らせてからアルコールで固定・保管してあるカニを解剖します。対象となるカニの種類はさまざまで、3~4㎝以上の大きなものから1㎝未満の小さなものまであります。そして、解剖したカニからエラを取り出します。エラは通常アゴやハサミやアシと一体化して8対か9対ありますのでこれらをすべて分離します。ここまでの作業は双眼実体顕微鏡を使って行います。「新しい顕微鏡はステージが広く、作動距離※2も今までの77.5mmから115mmとかなり大きくなったので、大きなカニや厚みがあるカニでも容易に観察や解剖ができるようになりました」と教えてくれたのは石川くん。そして、「倍率が、5倍から7.5倍になったので、これまで苦労していた小さなカニの解剖がすごく楽になりました」と田上くん。さらに加納くんは「視野数※3が18mmから22mmと大きく拡がったことで作業がとても楽になりました。デザインもシンプルで好きです」と述べてくれました。そして、この顕微鏡に出会った三人に共通する思いは『これまで見られなかったものが観察できることで研究の幅が広がり、それが新しい発見につながるかも知れない』というものでした。

ラボ内でのSMZ745 を使った研究の様⼦
SMZ745 を覗きながらカニを解剖
シャーレ上に分類したエラを撮影用の台にセット
マクロレンズを装着したデジタルカメラで撮影

そして、顕微鏡を覗きながら分離したエラはシャーレに並べて撮影を⾏います。ラボ内には撮影専⽤の台が設置されており、マクロレンズという接写⽤のレンズを装着したデジタルカメラで撮影します。三⼈はそれぞれの作業を分担しながら⾮常に⼿際よく⾏い、その姿は何年もかけてこの研究を根気よく続けてきたことを、何よりも物語っていました。

左がこれまで使⽤してきた顕微鏡、右が新しいNikon SMZ745
Nikon SMZ745T による画像:スナガニのエラ
(染⾊し、撮影後に深度合成)
撮影・提供:ラボオルカ くや みつお
Nikon SMZ745T による画像:スナガニの吸⽔⽑
(撮影後に深度合成)
撮影・提供:ラボオルカ くや みつお

「これまでの経験の中で研究の方法を身に付けてきました。それは、さまざまな文献や日頃の観察の中から課題を見つけ、どうやったら解決できるかを三人で徹底的に議論し、予想や仮設を立て、観察や実験を繰り返しながら解決していくということです。この一連の過程を繰り返すことによって、また新たな課題と結果を得ることができます。この経験を将来に活かして行きたいです」と語ってくれたのはこのチームのリーダである石川くん。長年ともに研究を続けてきた田上くん加納くんも同じように、これから進むべき道を自分の意志を持ってしっかりと見つめています。

大自然の不思議に深い眼差しを向け、新しい視点で考え、地道な研究で解答を拓いていく。そんな、将来が楽しみな若く情熱的な研究者たち。その日々の努力にこれからもニコンの顕微鏡が貢献できることを願っています。

  • ※1双眼実体顕微鏡は、両方の眼で観察対象を立体的に捉えることができる顕微鏡のこと。顕微鏡の像は正立。
  • ※2作動距離は、顕微鏡のピントを合わせたときの対物レンズ先端から観察対象までの距離。
  • ※3視野数は、接眼レンズで見ることができる対物レンズによって作られる像の直径。通常はmmで表記される。

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