Well-Being細胞の秘密を追う

『微速度(タイムラプス)撮影』という言葉をご存じでしょうか。数秒、数分、数十分、さらに一日といった間隔で一コマずつ撮影を行い、長い時間をかけて起こる変化を短時間の映像に圧縮する手法です。『ヨネ・プロダクション』は、半世紀以上にわたり顕微鏡を使った微速度撮影に取り組み、生きた細胞や細菌などの姿を捉え続けてきました。最近では、テレビ局の依頼で、新型コロナウイルスが細胞を破壊する様子を撮影することにも成功しています。この特殊な映像制作の現場にニコンの顕微鏡がどのように役立てられているかをご覧ください。

細胞や菌の動きを可視化する微速度撮影。

1958年、日本で制作された科学映画が、ベネチア記録映画祭のグランプリほか国内外の映画祭で数々の最高賞に輝きました。その題名は『ミクロの世界』、当時まだ効果的な治療法が見いだされていなかった肺結核の原因である結核菌と白血球の戦いを、顕微鏡を用いた微速度撮影※という手法で記録し、通常の映像では決して見ることのできない細胞(白血球)と菌の動きを鮮明に捉えたことが世界を驚かせました。

「『ミクロの世界』制作の中心を担ったカメラマン小林 米作を代表に、いまも現役の淺香 時夫らが1967年に設立した映像制作会社が、株式会社 ヨネ・プロダクションです」と語ってくださったのは代表取締役 CEOの藤枝 愛優美さん。ヨネ・プロダクションは、その後も独自の技術で細胞や生体組織、菌、微生物などを撮り続け、特に生物顕微鏡を用いた微速度撮影の分野では世界屈指の実績を残してきました。見えない世界を可視化する技術は、医学や医療・創薬分野にも多くの貢献を果たしています。「最近のエポックは、テレビ局の依頼により大阪大学微生物研究所の指導で行った新型コロナウイルスに感染した細胞の8K撮影です」と藤枝さん。その映像はウイルスによって細胞が破壊される様子を世界で初めて捉えたもので、多くの学者や専門家が関心を寄せ、社会的にも大きな注目を集めました。

株式会社 ヨネ・プロダクションのフロアはこのビルの最上階
藤枝 愛優美 代表取締役 CEO
鶏の胚の成長(オリジナルは8K映像)
「からだの中の宇宙」2018年より ※Nikon MICROPHOTを使用
小脳神経とエクソソーム(オリジナルは8K映像)
「からだの中の宇宙」2018年より ※Nikon DIAPHOT TMDを使用
細菌と戦う白血球(オリジナルは35mmネガフィルムからテレシネSD) 「細菌とたたかう」1974年より
細胞の分裂(オリジナルは4K映像)
「からだの中の宇宙」2018年より ※Nikon ECLIPSE Ti2を使用
新型コロナウイルスに破壊される前の細胞
(オリジナルは8Kで微速度撮影)
画像提供:大阪大学
※Nikon ECLIPSE TE2000を使用
新型コロナウイルスに破壊された細胞
(オリジナルは8Kで微速度撮影)
画像提供:大阪大学
※Nikon ECLIPSE TE2000を使用
  • 微速度撮影とは、あらかじめ設定した間隔で撮影を行うこと。タイムラプス撮影とも言う。撮影後の静止画をつなぐことで、長時間にわたるゆっくりとした変化を、短時間の動画として再生することができる。

研究者と撮影者のシナジーが生み出す映像。

ヨネ・プロダクションには制作部、演出部、撮影部、そして生物試料をつくる研究部があります。研究部はまず、学術機関や学会、政府の省庁、製薬会社といったクライアントからの資料や論文を読み込み、それを制作部、演出部に共有。そこから生まれた企画に沿って、観察対象をどのように培養し、プレパラートやシャーレに生きた状態で準備するかなどを考える役割を担います。
先ほど藤枝さんが紹介された、淺香 時夫さんは「鮮明かつ斬新な手法で、しかも学術的に説得力のある映像を撮るための試料を提供する必要があります。これが非常に難しい」とおっしゃっていました。さらに「撮影部とは言い合ったりもしますが、その議論の中から新しい発見もありつつ進んでいきます。これヨネ・プロの特徴だと思いますよ」と眼を輝かせていました。1925年生まれ、いま96歳の現役です。

淺香 時夫 取締役 学術部長
画像提供:リケラボ
試料作成のための十分な設備を整えた研究部
撮影部では大型テントの中に顕微鏡と機材を設置

そして、次にお話しを伺ったのは、撮影部の藤本 ひろみさん。これまで数々の作品を手掛けてきたスペシャリストで、科学的な視点も持ち合わせた稀有なカメラマン。今回の新型コロナの8K映像撮影も担当されました。「顕微鏡による微速度撮影で重要なことは、どのような被写体の、どのような現象を撮影するかという明確な狙いです。しかし大抵の場合は思いどおりにいきません。私たちは昔から、そして今も、うまくいかない部分をどう解決するかを試行錯誤しながらやってきました。そこが大きな力になっていると思っています。」と語ってくださいました。
現在、ヨネ・プロダクションは6名の少数精鋭。通常の映像制作会社にはない、研究機能を持ち、その知見と経験をスタッフ全員が共有する、まさに生命科学映像のスペシャリスト集団です。だからこそ、世界が驚くような映像を生み出し続けることができるのでしょう。

藤本 ひろみ 撮影部アドバイザー

スペシャリストの試行錯誤、創意工夫に応える
ニコンの生物顕微鏡たち。

顕微鏡による微速度撮影という特殊な手法を駆使し、常に新しい映像の制作に挑む、ヨネ・プロダクション。だからこそ機材の使用方法にもさまざまな試行錯誤、創意工夫があります。特に顕微鏡に関しては、ユニークな使い方が設立当時から受け継がれてきました。

ステージ上の環境を保つためのアルミフレーム製のボックス
スチールラック製のボックスと顕微鏡奥にはヒータがある

たとえば、細胞を生きた状態で長時間観察できるように、ステージ周辺を一定の温度や湿度に保つための加工を施す、またそこにCO2などを送り込めるような工夫がその一例。特殊なシャーレを使ったり、DIY店で購入した部材でボックスを作ったり、電気街で部品調達したりしていたそうです。これらはその後に、顕微鏡用のチャンバー※1などの装置として、さまざまなメーカーが実用・市販化しています。まさに必要を母に、先進の装置のアイデアを生み出していたと言えるでしょう。

メインで使用している『Nikon ECLIPSE TE2000』は、大型テントの中に設置されている

最近の例としてはコンデンサー、つまり光源の工夫があります。ある程度厚みのある撮影対象の場合、正立顕微鏡※2に倒立顕微鏡用※3のコンデンサーを使ってみたり、光源を思いきり片方に寄せたりといったカスタマイズを行っているそうです。

撮影部の藤本さんからは、「いままでいろいろなカスタマイズを施して、まさに顕微鏡を使いたおしてきましたが、ニコンの顕微鏡の場合、ステージにガタがきたり、ピントに狂いを生じたりせずに、しっかりと仕事をしてくれ、狙い通りの映像を撮ることができます」と篤い信頼を伝えていただきました。研究部と撮影部には、現在メインで使用しているECLIPSE TE2000を始め、いたるところにニコンの顕微鏡が置かれています。中には50年以上前の製品もあり、それらの多くが現役で活躍しているのだと伺いました。

いまも現役で活躍する、約50年前のニコン製顕微鏡

常に斬新な手法で細胞や細菌などの秘密を追い続け映像として可視化し、医学、生命科学の発展に貢献するスペシャリストたち。その活躍にニコンの顕微鏡が役立っていることを誇りに思います。

  • ※1顕微鏡用チャンバーは、ステージ上の温度や湿度を一定に保ち、細胞などを培養・観察する事を可能にする装置。
  • ※2正立顕微鏡は、観察対象となる試料の上に対物レンズがある顕微鏡。コンデンサ(光源)はステージの下側となる。
  • ※3倒立顕微鏡は、観察対象となる試料の下に対物レンズがある顕微鏡。コンデンサ(光源)はステージの上側となる。