
約6年の宇宙の旅を経て、2020年12月に小惑星“リュウグウ”のサンプルを地球へ送り届けた『はやぶさ2』。そのサンプルは、46億年前の太陽系の誕生と、生命を構成する有機物や水がどこから来たのかを解き明かす鍵となります。サンプルの観察と分析、その結果の学術的記載などを行う、JAXAの宇宙科学研究所 地球外物質研究グループ。この最先端の現場で、ニコンの実体顕微鏡が役立てられています。

画像提供:JAXA
- ※“リュウグウ”試料は、地球外物質研究グループサイトで公開中。
curation.isas.jaxa.jp/topics/22-01-13.html
小惑星の秘密を探る「地球外物質研究グループ」。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、日本全国に20ヵ所、海外にも5つの拠点を展開。宇宙航空分野の基礎研究から開発・利用に至るまでを一貫して行い、広く社会に貢献することを目的としています。今回訪問した「宇宙科学研究所(相模原キャンパス)」は、太陽の活動や月・惑星、ブラックホール、銀河の成り立ちなど、宇宙に関するさまざまな謎を研究しており、あの小惑星探査機『はやぶさ』、『はやぶさ2』のホームグラウンドでもあります。
お話を伺ったのは、宇宙科学研究所 地球外物質研究グループの研究員である、宮﨑 明子さん。このグループは、『はやぶさ』の“イトカワ”サンプル、『はやぶさ2』の“リュウグウ”サンプル、そして今後のリターンミッションによるサンプルの受け入れ、保管・管理から観察・分析、その結果の学術的記載や、データベースづくりなどを行います。現在、“リュウグウ”サンプルの管理・分析・記載作業に携わっています。

地球外物質研究グループ
研究員 宮﨑(金嶋)明子さん

- JR横浜線「淵野辺駅」南口より徒歩20分
- 同駅より神奈川中央交通バス(淵36・淵37 青葉循環)
「市立博物館前」下車徒歩2分 - 小田急線「相模大野駅」北口より神奈川中央交通バス(相05相模原駅南口行き)「大野台三丁目」下車徒歩10分、(相02相模原駅南口行き)「宇宙科学研究本部」下車徒歩5分


『はやぶさ2』が届けたタイムカプセル。
では、小惑星“リュウグウ”のサンプルからどのような宇宙の秘密が解き明かされるのでしょうか。そこには、小惑星の特性が関係しています。地球が属する太陽系は46億年前に誕生したとされています。最初、宇宙のガスやチリが渦を巻きながら集まり、互いの引力で凝縮され渦の中心に原始太陽と呼ばれるものが生まれました。そして残りのガスや塵から直径数キロメートル規模の微惑星※1が形成され、さらにこの微惑星が衝突や合体などを繰り返して惑星を形成したのです。その過程で惑星にならなかった小惑星※2が無数に残されました。『はやぶさ』が探索した“イトカワ”も、『はやぶさ2』の“リュウグウ”もこの小惑星にあたります。

「“リュウグウ”はC型小惑星と呼ばれ、地球に飛来する炭素質コンドライト隕石の故郷のひとつであると考えられています」と語る宮﨑さん。さらに「炭素質コンドライト隕石には、水や有機物が多く含まれています。燃えながら地表に落ちてきた隕石とは異なり、“リュウグウ”は46億年前の太陽系が生まれた頃のままの状態を残したタイムカプセルのようなもの、生命の起源となる物質や地球の水がどこから来たのかを解明する手がかりがそこにはあるはずです」とお話しくださいました。『はやぶさ2』は2020年の12月、地球に最接近した際、 “リュウグウ”のサンプルを格納したカプセルを分離し地上へ届けました。そしてその後も拡張ミッションとして新たな小惑星探査への旅を続けています。

画像提供:JAXA
- ※1太陽系のような惑星系形成の初期段階につくられる小天体。
- ※2太陽系の惑星と準惑星およびそれらの衛星を除いた小天体の中で、主に木星の軌道周辺より内側にあるもの。
サンプルの謎解きを支える顕微鏡。
『はやぶさ2』が地球に送り届けた“リュウグウ”のサンプルは、総量わずか5.4グラムでしたが、それは目標としていた0.1グラムの50倍以上。サンプルは黒い砂状のもので、中には数ミリメートルの大きなものも含まれており、予想を超える大きな成果でした。
この“リュウグウ”のサンプルを扱うために、専用のクリーンルームとクリーンチャンバー※1が用意されました。顕微鏡の設置されているクリーンルームは、一般的なオフィスの約1万倍という空気の清浄度。そしてチャンバー内は高純度の窒素で満たされています。これは、空気や塵などの影響が及ばないようにするため。さらに砂状のサンプルは一粒ずつ、特殊なシャーレに入れられ、観察・分析などが行われます。


画像提供:JAXA

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ここで、試料の色や形、大きさなどを観察する目的で使われているのが、ニコンの実体顕微鏡『SMZ1270i』。しかしその様子は通常と大きく異なります。なぜなら特殊なシャーレはクリーンチャンバー内にセットされ観察はチャンバーの上に設けられた窓から行うためです。そのため大型ステージに取り付けられた顕微鏡自体がXYZ方向に動くという非常に特殊なものでした。その様子は、冒頭の動画コンテンツでもご覧いただけます。


顕微鏡で撮影された “リュウグウ”試料


「“リュウグウ”の砂は、そのひと粒ひと粒が別々の情報を持っているかもしれないなと思います。それは、それぞれのタイムカプセルを開けてみないとわからない・・・そんな気がします※2」と宮﨑さんは語ってくださいました。
遥か彼方にある小惑星の微細な欠片から、生命の、地球の、宇宙の謎を解き明かそうとする研究者たちの挑戦に、これからもニコンの顕微鏡が役立てばと願っています。
- ※1チャンバーは「小さな部屋」を意味し、内部を真空状態や特定の気体で満ちた状態にするための装置。
- ※2“リュウグウ”試料は、地球外物質研究グループサイトで公開中。curation.isas.jaxa.jp/topics/22-01-13.html