Well-Being次世代の医療人を育てる

QOL(生活の質)向上に、医療は重要な役割を果たします。少子高齢化や健康維持・管理への意識の高まり、そして医療技術の進歩にともない、現場の医師をサポートする専門的な知識と技能を持った臨床検査技師などの医療技術者が求められています。埼玉医科大学の保健医療学部では、医療を支える次世代の人材を育成。その中の、臨床検査学科で、ニコンの顕微鏡が学生たちの取り組む臨床検査実習に役立てられています。

医師をサポートする臨床検査技師の育成。

埼玉医科大学の保健医療学部は新しい時代の医療を見つめ、人々の健康と福祉に貢献できる保健医療技術の専門家育成を目指して、2006(平成 18)年に開設されました。「保健医療学部には現在、看護学科、臨床検査学科、臨床工学科、理学療法学科という 4 つの学科があり、私は臨床検査学科の教授を務めています」とお話しくださったのは、小野川 傑(つよし)先生。「臨床検査学科は医療職である“臨床検査技師”を養成する学科です。生理学、病理学、免疫学などの医学的内容を学ぶことで病気のしくみを知り、これらをベースとした各種検査の講義・実習を通じて、診断補助の方法を習得します。さらに公衆衛生学や栄養学、そして遺伝子検査といった最先端の領域まで、その学びは非常に広範囲にわたり、医師を養成する医学部から治療を除いたものに匹敵するとさえ言われています」と語ってくださいました。

埼玉医科大学
保健医療学部 臨床検査学科 免疫分野
小野川 傑 教授
埼玉医科大学 日高キャンパス正門/日高キャンパス 保健医療学部棟

医療技術とともに臨床検査技術も日々進化しています。各種検査機器の精度向上や新たな検査手法の開発、そして高い専門スキルを持つ臨床検査技師たちによって、より正確で迅速な検査が可能となり、医師の診断・治療をサポートしています。さらに健康診断などでの検査を通じて健康維持・管理にも貢献。多くの人のQOL向上にとって欠かせない技術と技能なのです。

臨床検査技師のパートナーとなる顕微鏡。

多様な医学的知識を学び、さまざまな検査の講義・実習を重ねてスペシャリストとしての技術と技能を身に付けていく過程で必要不可欠な機器が顕微鏡です。「顕微鏡は臨床検査技師を目指す学生が最初に手にする検査機器です。在学中はもちろん、卒業後に顕微鏡を使う検査に従事することになれば、技師人生で長い付き合いになります。いわば大切なパートナーですね」と小野川先生はおっしゃっていました。
顕微鏡を使った実習は組織学、病理学、血液学、微生物学など多岐にわたります。その中で今回は、ニコンの蛍光顕微鏡※1 ECLIPSE Ci-Lを用いた臨床免疫学実習を取材させていただきました。ここで学ぶ「抗核抗体スクリーニング検査」は臨床検査技師国家試験で写真問題として頻出です。しかし多くの教育機関では1台の蛍光顕微鏡を大勢でシェアすることが多く、その場合一人が観察できる時間はほんのわずかです。「一人ひとりにもっとしっかり観察し記憶してほしいと、長年願っていました。どんなにきれいな画像をスクリーンなどで見せても実際に接眼レンズを通して見る蛍光像とは、見え方も印象もまったく違うからです」と先生。その願いは埼玉医科大学でかなうことになります。「各5名ほどに分けた実習班ごとに蛍光顕微鏡を準備したいと考えてニコンさんに相談したところ、必要台数を貸していただけることになり、一人ひとりの観察時間を増やすことができました。また、蛍光像をより深く理解するために、蛍光顕微鏡の仕組みについて、ニコンさんから学生たちに解説をいただく機会を得ることもできました」とお話しくださいました。「蛍光像は実際に見ると非常に印象的で、初めて蛍光顕微鏡を覗いた学生のほとんどが『わあ!』とか『すごい!』などの歓声を上げます。かつては、私もそんな学生のひとりでした」と語る小野川先生。「現在の恵まれた実習環境が維持できることを、とても感謝しています」と嬉しいお言葉をいただきました。

Nikon ECLIPSE Ci-L
ECLIPSE Ci-L を使った、蛍光画像観察の実習
抗核抗体陽性像 細胞核内がどのように蛍光染色されているのかを判読、分類する。
染色型(左から順に):Homogeneous(均質型)、Speckled(斑紋型)、Nucleolar(核小体型)

ECLIPSE Ci-Lを導入した経緯について伺うと、顕微鏡本体以外にも必要とされる光源ユニットを含めて全体がコンパクトであったこと、高分解能でさらに明視野観察※2で使用した場合も非常に明るいこと、さらにデザインのよさが決め手になったそうです。
同大学においてニコンの顕微鏡はECLIPSE Ci-Lの他にも、学生実習用顕微鏡としてECLIPSE E100が採用されています。この顕微鏡は80台以上あり、臨床検査学科はもとより看護学科や理学療法学科の実習でも使用されています。そして、これらには1台1台を収納できるよう特注の保管棚が設けられています。棚の前面はガラス戸になっており、きちんとしまわれているかがひと目で分かるようになっています。これは、道具を大切にする臨床検査技師の精神の表れとのことです。

特注の棚に収納された Nikon ECLIPSE E100
棚の前面はガラス戸で収納状態を確認できる
  • ※1蛍光顕微鏡とは、蛍光性の生体試料などを励起する(光らせる)ことができる特殊な光源を使用した顕微鏡のこと。
  • ※2明視野観察とは、試料を透過光などによって観察する方法で、病理切片や血液標本の観察に用いられる。

明日の人材を、医療の未来を見つめて。

最後に、小野川先生の人材育成に対する思いを聞いてみました。「基礎をしっかりと学び、いつの時代にも共通する原理原則をおろそかにしないこと。そして、常に人への思いやりを忘れないでほしいと思っています。」とお答えくださいました。知識や技術・技能を磨くだけでなく、医療にかかわる一員としての心構えも大切にしてほしい、という願いがそこにありました。
先生は現在、臨床医学である救急医学領域の重要な対象となっている敗血症についての研究にも取り組んでおられます。「感染後に急激に生じる臓器障害をいかに回避するかを免疫学的アプローチにより解明し、命を救うべく立ち向かう救急医たちに新たな治療方法の基礎となる『考え方』を届けることを夢見ています。学生たちの卒業研究でもこれをテーマにすることで臨床検査技師としてはもちろん、リサーチマインドを持った人材を育むべく、彼らと一緒に挑戦しています。その研究において、顕微鏡は私にとって欠かせないパートナーなのです」と、心強いメッセージをいただきました。

明日の医療を担う人材を育てること、そして、未来の医療への可能性を追求すること。そこに、ニコンの顕微鏡は貢献し続けていきます。

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