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細胞培養工程のSOP作成において画像解析が有効な場面とは?

公開:2020.03.11

細胞製造工程を構築するためには、将来この条件で製造すると仮定した製造工程条件のもとで製造した場合に、目標とする特性をもつ細胞が繰り返し得られるかを確認し、その結果から工程が適切であるかを評価するというステップを踏まなければなりません。その確認及び評価の基準は、客観的かつ定量的なデータに基づいていることが望ましいとされています。ここではそのような確認、評価の際に有効な画像解析手法を紹介します。

目次

細胞製造工程の構築とは

「再生医療等製品の製造工程を構築する」とは、いったいどのような作業や状態を意味するのでしょうか。それは、何度も製造を繰り返しても、最終的に得られる細胞の特性が “安定的に目標のスペック内に収まる” ような製造工程の諸条件や手順を開発段階で見つけていき、その諸条件の適格性や妥当性を確認や検証(クオリフィケーション、バリデーションあるいはベリフィケーション)して、そのエビデンスに基づいて正式に文書化していくことを指しています。

その際には、誰でも間違わず同じ結果が出るように、詳細な作業操作の手順はもちろんのこと、試薬類の状態、器具、機器や設備の稼働状態の全てが細かく仮決めされます。そして、その製造工程通りに製造を繰り返し行ってみて、その結果、連続で目標の特性のスペック内の細胞が得られるかどうかを確認します。もし連続で目標のスペック範囲に収まる細胞が得られたことが確認できれば、初めて、その製造工程条件に用いられた作業手順や、用いられた試薬や器具・機器設備条件が妥当であったとみなされ、それらは一つ~複数のSOP(標準作業手順書)として完成されます。このような作業を製造工程の全般にわたって行い、SOPを完成させていくことが、細胞の製造工程の構築と言います。

SOP作成の流れ

SOP作成の流れ

なお、これらの確認や検証は、客観的かつできるだけ定量的であることが望ましいとされています。本サイトの「観察の対象と判断」でも述べたように、研究者は日々の基礎研究において、培養工程中の細胞の数や形態を顕微鏡で観察しながら細胞の状態や培養条件を評価しています。そのため、細胞製造工程の構築が必要となる開発フェーズに進んだ頃には、研究者には目視観察による様々な評価基準に関する情報が経験値として蓄積されているはずです。その蓄積した情報を基に、製造工程条件の妥当性評価を行うことは理にかなっていると言えます。では、細胞の数や形態の変化といった指標を用いることが有用な、細胞の培養工程の評価とはどういったものがあるのでしょうか?次の章で一例をご紹介します。

製造工程の条件評価における画像解析の活用

細胞製造工程における画像解析

実は、製造工程には、細胞の数や形態の変化といった指標が有用な工程、つまり画像解析を活用できる評価段階が多々存在すると考えられます。

ただし、基礎研究段階において、それらを定性的に評価して経験値を積み上げていた場合は、以降の開発フェーズを円滑に進めるために、開発フェーズのなるべく早い段階において、できるだけ定量的な指標に置き換えておくことが望ましいとされています。これは、取得するデータを客観的に評価できる状態にして、そのようなデータを蓄積させるためです。目視観察によって得られた情報は定性的な情報ですので、画像解析を用いることで定量的情報に変換していくことが有効な手段となります。

ここでは、一般的な細胞製造工程の流れに沿って、各工程の細胞に影響を及ぼす要因と、その要因が細胞の特性に与える影響、そしてその影響を評価するために有効な画像解析手法について解説します。

細胞製造工程の流れ

一般的な細胞製造工程例

細胞の単離

細胞の単離には2つの手法が存在します。組織を細断して培養容器上に置き、細胞を自然に遊走増殖させる方法と、コラゲナーゼやディスパーゼなどのプロテアーゼ系の酵素で組織内のタンパク質を切断し細胞を単離する方法です。

手法ごとのメリット・デメリット

遊走増殖させる方法は、後述する酵素処理法とは異なり、酵素による細胞へのダメージを回避することができます。しかしその一方で、細胞の回収に時間を要すること、細胞が高密度で存在する期間が存在することが懸念されます。

一方、酵素処理による方法は、比較的短時間に細胞を回収し、単離工程で必要な細胞数を達成することができたかどうかを把握することができます。しかし、酵素濃度や作用時間、振とうの強さ、ピペッティングの強さといった処理の過程に発生するさまざまな工程条件が細胞にダメージを与える原因となり、その結果、十分な生細胞数が回収できない、あるいは生細胞数は十分であったがその後順調に増殖できない、といった現象が生じることがあります。

評価方法

細胞の単離工程では、遊走増殖、酵素処理のどちらの方法を用いても、ロットごとに回収された細胞数にばらつきが生じる可能性があります。そのため、実際に回収できた細胞数や、生細胞数と死細胞数の比率などを把握しておくことが重要です。具体的には、細胞カウント(生/死)や、回収した細胞の増殖曲線が規定の範囲内であるかを確認することで、単離の工程および条件が適切であるかどうかを評価することができます。その際、特に自家細胞の製造においては、回収される細胞数が限られることから、侵襲的な測定手法を用いた細胞計測が難しい場面も多くありますので画像解析による測定は大変有効と考えられます。

有効な画像解析手法

細胞の拡大培養

細胞の性質に影響を及ぼす原因となりうる工程条件

細胞の拡大培養の段階では、培養に用いる培地や試薬類の組成、培養容器の培養表面の状態、インキュベータ庫内の温度の不均一さや、インキュベータからの出し入れに伴うサンプルの温度変化およびCO2濃度変化や振動などが、細胞の性質に影響を及ぼす可能性があります。細胞を播種する際には、ピペッティングの強さや播種の不均一さが、その後の細胞の増殖に影響を及ぼす原因となります。培地交換においては、培地を添加する際にピペットから吐出される水圧の強さによって細胞が物理的ダメージを受けたりすることもあります。

さらに、幹細胞ステムセル)は、継代数を重ねると増殖能力や分化能力が低下し、細胞の大きさも変化するという特徴があります。また、細胞が増殖を続けると、細胞同士が接触し始め接触阻害を生じ、細胞はストレスを受けます。そのため、事前に決めておいたコンフルエント率の基準を超えた培養は行うことがないように手順を作成する必要があります。細胞の接触阻害、培地や試薬等による細胞へのストレスにより細胞の性質が変化してしまった場合は、細胞の形態に変化が現れますので、細胞の形態は、工程を評価する良い指標になります。

評価方法

拡大培養の工程では、作業者の操作や培養条件が適切かつ一定であるかの検証が必要です。細胞カウント(生/死)や細胞増殖曲線、細胞形態が規定の範囲内であることを確認することで、拡大培養の工程および条件が適切であるか評価できます。コンフルエント率を把握するためには、複数ロットで同じ継代数の細胞の増殖曲線を作成し、どの播種濃度でどのぐらいの日数で培養した場合に何日目に規定のコンフルエント率に達するかを把握し、手順を標準化します。自家細胞の初代培養においては、細胞の増殖速度がまちまちで、標準化することが難しい場合もありますが、そのような場合は、最低限、どのような頻度で確認作業を行うべきか、その手順を取り決めておく必要があります。

有効な画像解析手法

細胞の継代

細胞の性質に影響を及ぼす原因となりうる工程条件

接着細胞継代工程では、培養容器に接着した細胞をトリプシン等の酵素で剥離する工程において、酵素の濃度や作用時間、温度変化、タッピングの強さ、細胞をほぐす際のピペッティングの強さなどが、生細胞数や細胞の性質に影響を及ぼす可能性があります。

細胞を播種する段階においては、細胞の播種濃度や密度ムラの有無によって、細胞の増殖速度が変化します。また、最適範囲の播種濃度でない場合は、細胞にストレスがかかることもあります。

評価方法

継代工程での影響を評価するため、継代回収できた細胞数や、および生細胞数と死細胞数の比率などの確認が必要です。細胞数カウント(生/死)や、回収した細胞の増殖曲線が規定の範囲内に収まるか、播種後の増殖過程において細胞の形態が継代前の形態に比べて変化していないかどうかを評価することで、継代の工程および条件が適切であるかを確認できます。

有効な画像解析手法

  • 細胞の形態変化

細胞の分化誘導

細胞の性質に影響を及ぼす原因となりうる工程条件

細胞の分化誘導工程では、目的に応じた分化因子を添加した分化誘導培地で培養することで、未分化の細胞を目的とする細胞の性質に誘導します。その際に、培地や分化因子の種類、濃度、培養容器の培養表面の状態、インキュベータ庫内の温度の不均一さや、出し入れに伴うサンプルの温度、CO2濃度の変化、振動などが細胞の性質に影響を及ぼす可能性があります。

分化誘導の工程では、細胞が目的の性質に分化誘導されているか、工程や条件が細胞の分化誘導を妨げていないか、分化誘導培地の交換頻度や分化誘導期間が適切であるか等の確認が必要です。

評価方法

細胞は、分化過程においてその形態が変化していきます。細胞の形態変化をモニターすることで、分化の進み具合を把握したり、分化誘導の工程および条件が適切であるか評価したりすることができます。また、分化誘導工程の初期段階の細胞の形態から、予定通りに分化できるかどうかを予測することができたという報告もされています[1][2][3]

また増殖速度や細胞種によっては、遊走能の変化も、分化の度合いを評価する指標の一つになります。

有効な画像解析手法

  • 細胞の遊走能

細胞の凍結・解凍

細胞の性質に影響を及ぼす原因となりうる工程条件

細胞の凍結工程は、細胞を遠心分離した後、凍結保護剤を加え懸濁させ、凍結容器に分注して行います。凍結保護剤は細胞にとって毒性が高いものが多いため、細胞と懸濁した後は素早く凍結させ、活性を止める必要があります。温度を下げる際には、細胞質内で水分が急激に凍結することにより形成される針状結晶や氷晶により細胞膜が壊されることがないよう温度降下ペースには注意を要します。また、凍結細胞ストックの度重なる出し入れに伴って冷凍保管庫内が温度上昇・下降を繰り返してしまうと、細胞性質が劣化する原因となるため、出し入れの時間や回数は管理されます。

細胞の解凍工程では、解凍と同時に凍結保護剤を除去し、細胞のダメージを防止しなくてはなりません。また、解凍や凍結保護剤の除去作業に伴うピペッティング、温度変化、遠心などの操作が細胞にダメージを与える要因となります。

評価方法

凍結前にカウントした理論値と解凍後の細胞数が同等であるか、および生細胞数と死細胞数の比率を細胞カウント(生/死)によって算出し、解凍した細胞の増殖曲線が期待した範囲内に収まるかを確認することで、工程および条件が適切であるかを評価できます。

有効な画像解析手法

このように、細胞の製造工程の条件を確認、評価する際には、様々な細胞の画像解析項目を活用することが有効です。各工程で受けた影響が細胞の性質変化としてすぐに表面化する場合もあれば、時間をおいてから変化として現れる場合もあります。そのため、工程を細かく区切りその工程単位で製造条件の良し悪しを評価することもあれば、工程を大きく区切ったり、あるいは工程全体を通して製造を行った結果で製造工程条件の適切性を評価したりすることもあります。いずれにせよ、結果をもって、製造工程を構築する段階においては、様々な指標を用いてデータを取得し、その指標とデータの中から、細胞の特性に特に影響を与えうる製造条件(重要工程パラメータ)と、細胞の特性変化を的確に把握するのに便利な指標(重要品質特性)を見つけ出すことが、製造工程管理の効率化につながります。また、将来的に製造工程を変更する際にも、これらの蓄積されたデータが比較評価の指標として大変役に立つことが期待されます。

    参考文献

    [1] Stem Cells.2016; 34: 935-47

    [2] Cytotherapy.2013; 15: 1527-40

    [3] Sci. Rep.2016; 6: 34009

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